川崎重工は「世界のヘリメーカー」になれるか UH-Xが日本のヘリ産業の将来を決める

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実際、だからこそ1960年代に川崎重工は米国のバートル社と大型ヘリコプター・バートル107IIのライセンス生産を行い、機体は自衛隊以外にもスウェーデンやサウジアラビアに輸出している。また、1970年代には先述のBK117をMBB(現エアバスヘリ)と共同開発し、これは世界の軍民市場でベストセラー機となって、今も新型モデルが開発、販売されている。だが世界市場で活躍したのは、そこまで。その後の同社は、ひたすら防衛省需要というリスクゼロの仕事にしがみついている。

三菱重工はどうだろうか。同社は、1990年代に民間用ヘリ、MH2000 を自主開発したが、わずか数機しか売れずに撤退した。MH2000は民間ヘリの需要を見誤っただけでなく、振動が大きいなど、技術面の問題も大きかった。同機を試乗した筆者の知っている航空誌関係者は「生きた心地がしなかった」と述べている。

官製談合が発覚して仕切り直しに

話をUH-Xに戻そう。陸自は現用の小型多用途ヘリ、UH-1Jの後継としてUH-Xの開発を企画した。これは川崎重工が主契約となって開発が決定されたが、2012年に官製談合が発覚して計画は見直しとなった。現在は、再度仕切り直しての再出発となっている。

そもそも、このときの川崎重工案は極めて筋が悪いものだった。やや旧聞に属するが、詳細を振り返っておこう。

陸幕は、輸入やライセンス生産も一応は検討したが、ユーロコプター(仏・独)やアグスタ・ウエストランド(伊・英)などの外国メーカーに行わせた提案は具体的なものではなく、真剣に検討された様子はなかった。状況証拠を積み上げると、UH-X計画は川重の提案する国産偵察ヘリOH-1で初めから決まっていたように思える。

だが、この計画を問題視した内局が計画に難色を示し、承認しなかった。平成20年度に計画がスタートするはずだったが、3年にわたって足踏み。最終的にはこれ以上遅延が難しいということで、内局が折れる形で計画が承認された経緯がある。

UH-X(旧案)の想像図(出所:川崎重工)

候補として、川崎重工はOH-1をベースに開発する案を提案、富士重工は現用のUH-1Jの双発型案を提示し、前者が平成23年度に採用された。その開発総額は279億円が予定され、平成24年度で35億円、平成24年度で183億円開発費が承認された。

この計画によるとUH-Xの調達単価は、現用のUH-1Jと同レベルの約12億円に抑えるとしている(UH-1Jの調達単価はおおむね約10億~11億円)。なお生産に際しては約71億円の初度費が予定され、調達単価12億円には光学電子系センサーをはじめオンボードの装備品などは含まれていない。

だが単発のUH-1Jに対し、UH-Xはエンジンが2つある双発である。普通は双発のほうが高価になるのに、同レベルの価格に抑えるというのは不可能だ。しかも原型となるのは平均調達単価が約20億円のOH-1である。使用するエンジン、XTS2の単価は4億円程度とされ、これを2基搭載するのでこれだけで8億円になる。UH-Xの調達単価を12億円に収めるなど当初から不可能だった。にも関わらず、陸幕は調達単価12億円の実現は可能だとして川重案を採択したのだった。この件は現場の一部幹部の仕業ということで決着したが、筆者は組織的な関与があった可能性が濃厚であったと見ている。

そもそも計画では120~180機程度を生産するにすぎない。であれば、実績のある輸入エンジンを使用した方が、維持費も含め大幅なコスト減が可能だ。しかし、陸幕は「悲願」の「国産エンジン」を搭載した「国産ヘリ」を達成しようした。計画さえ進んでしまえば、単価が上がった言い訳などいくらでもできると考えたのかもしれない。そうなったとしても、誰も責任を取る必要がないため、不可能なことをまるでできるように書類をつくるのである。

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