ウクライナからすれば、2023年6月に開始した大規模反攻作戦が不発に終わった最大の要因は、アメリカがエスカレーション回避論でウクライナを押さえつける一方で、F16戦闘機など必要な武器を供与しなかったことだ。
キーウの希望通り、供与が実現していれば、2023年末までに全占領地を奪還できていたはずだ、との怒りが充満していた。
ダボスでのアメリカからの戦略変更提案が、これまで2年間溜まっていたバイデン政権への不満のガスに火をつけたようだ。
筆者は反攻開始以来、アメリカ政府とウクライナ側の間で続いていた反攻戦略をめぐる対立について、「ウクライナが奪還作戦実行で感じた『手応え』」(2023年9月5日付)などで伝えてきた。
東部ドンバス地方や南部ザポリージャ州、ヘルソン州で反攻作戦を続けているウクライナ軍に、南部に集中するようアメリカ軍が求めたのに対し、ウクライナ軍は東部奪還の失敗につながると一貫して拒否してきた経緯がある。
アメリカの戦略を疑い始めたウクライナ
実際問題として、ロシア軍はこの間、プーチン氏が厳命していた東部ドンバス地方の完全制圧のため猛攻を続けている。ウクライナ軍がこれを跳ね返すことができたのは、東部で十分な兵力を維持してきたためだとの自負がある。逆に言えば、アメリカによる戦略提案への懐疑があるのだ。
しかし、今回バイデン政権が打診してきたクリミア集中案は、キーウ側に対し、東部のみならず、南部の領土奪還作戦の延期を迫るものだった。これによって、ゼレンスキー政権のバイデン政権への不信感が一層深まった。
不信感を深めさせる材料はこれ以外にもあった。これまでウクライナの防衛支援をめぐる関係国会合で決まり、アメリカ国防総省が行うはずだった支援がホワイトハウスの意向で断念させられていた事実が漏れてきたからだ。
ウクライナの立場に寄り添う姿勢が目立っていたオースチン国防長官が長射程の地対地ミサイル「ATACMS」(エイタクムス)を供与するという提案を、ホワイトハウスが却下していたという。
先述の軍事筋は、こうした動きについて「アメリカ政権には統一された司令部は存在しない。自分たちの戦争とは思っていない」と指摘した。さらに「そろそろ戦争をやめたらどうか、とキーウに言ってくる準備を始めたのだろう」とも見る。
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