バイデンの存在薄くなる3年目のウクライナ戦争 「ロシアが攻めてくる」欧州の危機感に応えられない

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トランプ政権再登場の可能性があるアメリカが、今後バルトが攻撃されても、ロシアとの戦争で自国の安全まで犠牲にする形で本当に守ってくれるのか、確信を持てなくなったからだ。

一方でウクライナにとって、2024年における最大の目標は何か。軍事面ではゼレンスキー政権が、バイデン政権の慎重姿勢をよそに改めて攻勢を掛ける可能性が相当ある。春には地上作戦開始に不可欠だったF16部隊がウクライナに到着する可能性があるからだ。

F16があれば、制空権を獲得し、南部などで地上作戦を開始できるようになる。目立った戦果を示すことで、ウクライナ軍の反攻能力を国際的に示すと同時に、ウクライナへの軍事支援継続に対する支持論を米議会でも高める政治的効果を狙うのではないか。

外交面でゼレンスキー政権の最大の目標は、2024年7月のワシントンでのNATO首脳会議で、ウクライナとの間でNATO加盟交渉に入ることが決まることだ。

ウクライナNATO加盟で米欧で論争も

2023年12月、欧州連合(EU)は、ブリュッセルで開いた首脳会議でウクライナの加盟交渉開始で合意し、EU加盟というウクライナの悲願実現へ道を開いたばかり。キーウとしては、NATOとの間でも加盟交渉開始にこぎつけ、正式な西側のメンバー入りを大きく前進させることを目指している。

このワシントンでの首脳会議で、バルト3国や北欧は交渉入りを支持するとみられる。一方でアメリカは反対すると予想されている。ウクライナへの寄り添い方をめぐり、米欧間で論争が起きる可能性も否定できない。

ロシアと北朝鮮との軍事協力の拡大も大きな懸念要素として急浮上してきている。先述のダボス会議では、侵攻をめぐりウクライナを支援する欧州諸国と、中立的姿勢を保つグローバルサウス(新興・途上国)の国々との間で、本音ベースでの議論も始まった。

このように2024年は単にウクライナ戦争のみならず、欧州安保や国際秩序全体をめぐる分岐点となる1年になりそうだ。2023年は先進7カ国(G7)議長国だった日本も、2国間の安保協定の締結も含め、引き続き積極的に関与しなければならない。

吉田 成之 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

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よしだ しげゆき / Shigeyuki Yoshida

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。

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