アメリカ有力メディアの中には、アメリカ側の新戦略案として、2024年は領土防衛に徹し、占領地奪還の攻勢に転じるのは2025年にすべきとの案があることを報じている。ホワイトハウスがウクライナ側に圧力を掛けるために意図的にリークしたのだろう。
しかし、2024年11月のアメリカ大統領選でバイデン氏再選が危ぶまれている状況で、2025年に攻勢に転じるとの戦略をウクライナに提示したとしても、真剣に受け入れられるはずはない。むしろウクライナには無責任な提案と映る。
なぜなら2025年1月にホワイトハウスの主になるのは、プーチン氏と良好な個人的関係があるとされるトランプ氏との見方が根強いからだ。
バイデン政権は約610億ドル(約9兆円)のウクライナ支援を含む緊急予算案の承認を議会に求めているが、共和党の反対で審議は難航している。共和党の背後にはトランプ氏の存在があるとも言われている。
欧州「自分たちでやるしかない」
そんなアメリカに冷ややかな視線を向け始めたのはウクライナだけではない。欧州も同様だ。
トランプ政権が再登場した場合、北大西洋条約機構(NATO)脱退の可能性を懸念している欧州では、ウクライナ対応を含めた今後の欧州全体の安全保障に関して、アメリカがもはや頼りにならないので自分たちでやるしかない、との機運が高まっている。
この動きを象徴するのが、イギリスによるウクライナとの2国間の安保協定の締結だ。各国がウクライナとの間で2国間の安保協定を締結する大方針自体は2023年7月のリトアニアのビリニュスで行われたNATO首脳会議で決まっていた。
この首脳会議では、ウクライナのNATO加盟に向けた明確なメッセージが出せなかったため、ウクライナ側の不満をなだめる代替策として、2国間の安保協定締結が決まっていた。
2024年1月、この安保協定の第1号として、キーウを訪問して調印したのがイギリスのスナク首相だ。ウクライナの安全保障に10年間コミットすることをうたったこの協定の肝は、将来ウクライナと停戦したロシアが停戦を破って、再び侵攻してきた場合の軍事支援を確約したことだ。
今後、ウクライナがロシアとの間で停戦交渉をするかどうかはわからない。しかし、この保障により、ウクライナは後顧の憂いなく、何らかの形でロシアとの停戦協定を結ぶ、という選択肢を確保することになる。
この2国間協定の交渉はドイツ、フランスとも行っている。仮にドイツとフランスも追随した場合、ウクライナの安全保障に与える意義は大きい。
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