「ある男の転落死」裏側に潜む"夫婦の秘密と嘘" 仏映画「落下の解剖学」で描かれる人間の複雑さ
夫が大音量で音楽を聞くことは「いつものこと」だと苦笑いを浮かべるサンドラだが、このままでは会話もままならないということで、取材はまた後日に仕切り直し。学生は家を後にする。
それからほどなくして、家の前で頭から血を流した夫のサミュエルが、雪の上に倒れているところが発見される。第一発見者は、視覚に障がいを持つ11歳の息子ダニエル。
検視の結果、死因は事故、もしくは第三者の殴打による頭部の損傷であることが明らかになる。そして現場の状況から、容疑者として浮かび上がったのはサンドラだった。有名作家が関わる事件ということもあってか、過熱気味な報道が繰り広げられる。
そして時が過ぎ、いよいよ裁判がはじまる。傍聴席には、息子のダニエルの姿もあった。裁判では、検察の厳しい追及や、数々の証言者によって、夫婦の秘密や嘘が次々と暴露される。
ダニエルの心は傷つけられていたが、それでもしっかりと耳を傾けることを決意する。いったい何が真実なのか、裁判は混沌とした状況に陥っていたが、そんな中、一度は証言を終えていたダニエルが「もう一度証言したい」と願い出る――。
女性監督で3人目のパルムドール
本作のメガホンをとったジュスティーヌ・トリエは、2013年の『ソルフェリーノの戦い』で監督デビューを果たし、2016年の『ヴィクトリア』、2019年の『愛欲のセラピー』などで高い評価を受けた注目の映画監督。
4本目となる本作でついにカンヌ映画祭のパルムドールを獲得することとなったが、女性監督でパルムドールに輝いたのは『ピアノ・レッスン』(1993年)のジェーン・カンピオン監督、『TITANEチタン』(2021年)のジュリア・デュクルノー監督に次いで3人目の快挙となる。
そして主人公のサンドラを演じるのは2006年の『レクイエム〜ミカエラの肖像』で第56回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(最優秀主演女優賞)を獲得し、2016年の『ありがとう、トニ・エルドマン』で第29回ヨーロッパ映画賞女優賞を獲得するなど、国内外の映画賞を数多く受賞する、ドイツを代表する女優ザンドラ・ヒュラー。
特に昨年のカンヌ映画賞では本作だけでなく、ジョナサン・グレイザー監督の『The Zone of Interest(原題)』がパルムドールに次ぐグランプリに輝くなど、彼女の出演作2本がカンヌを沸かせたことも話題となった。
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