怖い"集団催眠"専業主婦年金3号はお得でズルイ Q&Aで考える「公的年金保険の過去と未来」(中)
ポイントは、第1号被保険者は、世界にもめずらしく国民皆年金保険を強引に目指したために生まれた、社会保険制度としては応益負担で運営されている、いびつな存在であるということだ。そして3号に言われる、いわゆる年収の「壁」があるのは、1号が存在するからでもある。しばしば、適用拡大は3号を減らすために行われるかのような論をみるが、1号を縮小するのが主眼である。
さらに、国民年金にしか加入していない第1号被保険者の運営原則と、厚生年金にも加入している被保険者2号、3号の運営原則はまったく違う。ゆえに、両者を比較することはできず、混乱を招くだけである。
──40年ほど前の1985年改正でできた年金制度を、どのように評価するか。
1985年年金改革の担当者たちは、労働省が男女雇用機会均等法の成立に努力しているのを意識しており、この法律ができれば、3号制度は利用されても一時的なものになるだろうと期待していた。ところが、あの時に生まれたのは「名ばかり均等法」で、多くの女性にとっては、働くよりも家にいるほうがましだと思えるような女性差別が根強く温存された労働市場のままであった。
しかし、その後均等法も改正され、他のワークライフバランスの諸施策も進められて、ようやく、社会や労働市場が、1985年頃に労働省に期待していた年金改革者たちの想定に近づいてきた。とはいえ、この間、3号が多く利用されたのは、さまざまな面で男女差が極めて大きい労働市場や家族政策の貧困に原因があった。
日本社会がようやく年金制度の想定に追いついた
社会が変わってきたのだから、古くからある年金を変えなければならないという話をよく目にする。ほんとうは逆で、ようやく社会が、以前からある日本の公的年金保険が想定していた社会に近づいてきたのである。
繰り返しになるが、日本の公的年金は、1985年の改革時に、片働き、共働き、単身などの世帯類型とは完全に独立になるように設計され、どの世帯類型であっても、「1人当たり賃金が同じであれば1人当たり保険料も給付額も同じ」という日本の公的年金の根本原則は貫かれている。だから、共働きや単身が増えたという社会変化の中で公的年金が変わらなければならない理由はないのである。
これまで長く信じられてきたように見受けられる「3号はお得な制度だ」という話は大きな誤解で、昔から、2号になることを家庭の事情が許すのであれば、2号を選択したほうが、年金は充実するようにできている。
「『専業主婦の年金3号はお得だ』って誰が言った?」でも話しているように、新しい世代で共働きが増えていくと、3号は活用されない「盲腸」のような存在になり、利用の仕方にもバリエーションがでてくればいい。仕事と家庭の両立支援や介護保険があまり充実しなかったら、子育てや介護期間中の人が利用することもあろうし、例えば、共働きの夫が新しいキャリアを目指し「僕はちょっとリカレント教育したい」と言ったら、妻は「わかった、じゃあ君の休職中は私の年金を君に半分あげればいいのね(夫が妻の3号になる)」、「ありがとう!君の時にも僕が協力するよ」という柔軟な活用方法もありうる。3号はそういった今後のライフスタイル多様性に見合ったバッファーのような使い方をすればいい。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら