経済学者が間違い続けた年金理解は矯正可能か Q&Aで考える「公的年金保険の過去と未来」(上)

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ちょっと前なら「老後2000万円不足」騒動、最近では「年収の壁」騒動。年金周りではいつも誤解に基づく騒ぎが絶えない(写真:artswai / PIXTA)
『週刊年金実務』という、年金界のできごとを毎週まとめて届けてくれる雑誌がある。福祉元年と呼ばれる1973年、公的年金に物価スライド制、賃金再評価という年金の成熟を加速する仕組みが導入された年に、刊行されている。このたび50周年記念として「年金制度のこれまでとこれから、10人にきく」という企画が立ち上げられた。そこに書いた文章に加筆し、東洋経済編集部の協力を得てQ&A方式で上編、中編、下編に分けて記事を構成した。
今回の上編では、世界的には評価が高い日本の公的年金が、なぜ国内では国民からの不信が強いのか、その背景と不信の構造を生み出す「主役たち」にスポットを当てている。

まだ国民共通の理解が欠ける公的年金

──日本の公的年金保険のこれまでと現状をどのように評価するか。

まず、公的年金という制度が何をやっているのかについて共通の理解が必要だ。

その年に生み出された付加価値(財・サービス)を、所得という形で、継続的に収入の途絶している人に渡して、彼らの財・サービス消費を支えるのが年金だ。年金受給者の財・サービスの取り分を増やすためには、同じ時間を生きるそれ以外の人たちの取り分を減らす必要がある。こうしたゼロ・サム問題を扱う領域は、経済学の中では、分配、再分配問題と呼ばれ、プラス・サムの関係を築く余地がある領域を生産問題と呼ぶ。

基礎年金の保険料拠出期間を40年から45年にするという制度改革案の話も、その年に生み出された付加価値のうち、基礎年金の取り分を40分の45(1.125倍)倍に増やすという分配の話だ。

いま現役期の人もいずれは高齢期に入り年金受給者になる。自分の高齢期の生活を今の制度で想定されているよりも豊かにするために、多くの人がまだ働いている65歳までの自分の現役期と高齢期の所得の分配を見直してはどうだろうか――問われていることは、そういう話だ(なお、厚生年金に入っている場合、今でも18.3%(労使折半)の保険料率で70歳になるまで被保険者でいることができるが、給付額の半分は国庫負担である基礎年金への拠出期間は40年が上限。それ以降は、報酬比例部分<国庫負担なし>のみへの拠出となる)。

年金の世界で”支え手を増やす”という言葉は意味がなく、長く、多く保険料を払ったら、自分の年金が増える。ただそれだけのことだから、年金の世界で“支え手を増やす”という言葉は使わないことだ。

もっとも、生産よりも分配のほうがはるかに政治的調整の難易度が高く、再分配制度である公的年金保険の構築はこれまで最難関の課題であったであろう。2022年12月、韓国の厚労次官・年金局グループが訪ねてきて、彼らは、既裁定年金(すでに年金を受け取っている高齢者たちの年金)をも給付調整の対象とし、支給開始年齢の引き上げを死語(無意味)とした2004年改革をどうして実現できたのかと、私を含めていろんなところで聞いていた。

その答えはよくわからないが、彼らの大きな関心の1つでもあり、彼らがこれから取りかかろうとしている被用者年金の一元化という難題も、31年をかけて2015年にやり遂げている日本の公的年金は、広く世界からも高く評価されているという事実はある。

たとえば、IMF(国際通貨基金)の年金セミナーでIMF財政局長のガスパール氏(元ポルトガル財務大臣)は、「日本の年金制度は、過去20年にわたり、諸データを開示し、改革されてきた。年金額はマクロ経済指標などに連動する仕組みとし、制度の持続可能性を高めたうえで、世代間分配構造にもメスを入れている。日本の年金制度は評価でき、年金のベストプラクティスの1つ」と評価している。

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