全ビジネスパーソンがプレゼンを磨くべき理由 科学的に明らかにされているコミュ力の価値

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コミュニケーションの力を磨いていくとは、これらの総合的な能力を高めていくことである。表現する力、他者を理解する力。自己を統制する力。そして、上手に関係をつくる力。これらはまさに、ビジネスパーソンとしての基礎力である。コミュニケーションに長じるとは、人間社会でよく生きるための多種多様な能力が総合的に高い状態なのである。

まずは練習すること

現代社会では、残念ながら、「愚直に頑張っていれば、いつかは気づいてくれる」という、薪を背負って勉強する二宮尊徳や、慎ましくも心清らかに暮らすシンデレラのストーリーは通用しなくなっている。情報過多で、アテンションエコノミー(注意を惹けるかどうかが経済的価値をもつこと)である時代、あなたは、ちゃんと他者にアピールができなければ、人生で大きく損をしてしまうことになる。

では、どうやってコミュニケーションの力を磨いていくのか。詳細は次回以降にお伝えしていくとして、皆さんにはまず、「それは単に練習の産物である」ことを強調しておきたい。ボールの投げ方、ピアノの演奏の仕方、水泳のやり方と同じ。相手に伝えることも、身体運動のひとつであり、脳の働きなのであるから、毎日ちょっとずつでも練習すれば、確かに昨日よりも上手くなるのが「伝える」ということなのである。引っ込み思案でも、静かな人でも、吃音症の人でも。先天的な条件の違いはあれども、誰しも、練習すれば確かに自己の中で前進していくのがコミュニケーションである。

社内会議、営業現場、クライアントの前で、取引先地の調整で、投資家・株主の前で、SNSで。この社会の、あらゆるシーンで、コミュニケーション能力の重要性が高まっている。だからこそ、それを苦手として、悩む人も増えている。コミュニケーションが前よりもちょっと上手くできるようになったら、様々な場面で、皆さんはもう少しずつ、得をするようになれるはずだ。自分に、自信もついてくる。だとすれば、今、皆さんが今年あたりやっておくべきことは、コミュニケーションを得意科目にしてしまうことではないだろうか?

(1)McCloskey, D. (2007) "How to Buy, Sell, Make, Manage, Produce, Transact, Consume with Words." University of Illinois mimeo.
(2)Herrick, J. A. (2020). The History and Theory of Rhetoric: An Introduction. Routledge.
(3)P・F・ドラッカー(2001)『マネジメント(エッセンシャル版)基本と原則』上田惇生編訳、ダイヤモンド社。
(4)日本語での解説としては、齋藤孝(2004)『コミュニケーション力』(岩波新書)に詳しい。学術用語として初めてコミュニケーション能力を定義したのは、Hymes, D. (1972). "On Communicative Competence." In J. B. Pride and J. Holmes (eds), Sociolinguisitcs: Selected Readings, Penguin Books。
(5)藤本学・大坊郁夫(2007)「コミュニケーション・スキルに関する諸因子の階層構造への統合の試み」『パーソナリティ研究』15(3):347-361。

中川 功一 経営学者、やさしいビジネスラボ代表取締役

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なかがわ こういち / Koichi Nakagawa

1982年生まれ。2004年東京大学経済学部卒業。08年同大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。大阪大学大学院経済学研究科准教授などを経て独立。現在、株式会社やさしいビジネスラボ代表取締役、オンライン経営スクール「やさしいビジネススクール」学長。専門は経営戦略、イノベーション・マネジメント。「アカデミーの力を社会に」を使命とし、経営スクールを軸に、研修・講演、コンサルティング、書籍や内外のジャーナルへの執筆など、多方面にわたって経営知識の研究・普及に尽力している。YouTubeチャンネル「中川先生のやさしいビジネス研究」では、経営学の基本講義とともに、最新の時事解説のコンテンツを配信。

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