前述したように、「人手不足感」とは程度に差がある連続的な概念であるため、ある求人が「本気の求人」なのか、「いい人が見つかったらラッキー」くらいのものなのか、という違いもあるだろう。求人件数の統計では、これらの差異まではわからない(求職側も同様に、本気度まではわからない)。
また、調査範囲の限界もある。
そもそも有効求人倍率はハローワークにおける求人・求職のデータを集計したものであり、入職者のうち2割程度にすぎない。インターネットやアプリを経由した求人情報や、社員の紹介を介したリファラル採用の需給バランスは反映していないなどの点には注意が必要である。
もっとも、例えば広告経由の入職者は3割程度を占めるが、求人広告掲載件数(直近データが確認できる2023年10月分)は前年同月や2019年同月の水準を下回っている。
前述した有効求人倍率が弱めの推移となっていることは、日銀が推計する需給ギャップの基となる労働投入ギャップが弱い状態であることと整合的である。
現実のデータは、産業も労働時間も低迷
2023年の日本経済は、コロナ後のペントアップ(繰り越し)需要が期待された割には、景気回復は限定的である。その結果、鉱工業生産や第3次産業活動指数は低迷している。
労働投入ギャップの基礎データである総労働時間も低迷している。
このような状況では、「本気の求人」が増加して賃金上昇圧力が高まるとは思えない。主観的な「人手不足感」よりも、現実のデータである「ハードデータ」から示される「人手不足」の現実を重視したほうが、経済予測によって有益だと、筆者は考えている。
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