このように考えると、「人手不足」の考え方の難しさの根源は、それが主観的であることがわかる。「人手不足」という言葉は、「不足」と言っている以上はなんらかの「満たされるべき基準」があるはずである。少なくとも、この基準は主観的になりやすい。
例えば、ある企業のプロジェクトチームのメンバーが、前年と比べて定年退職を理由に1名減ったと仮定する。その結果、売上高が前年よりも減ったとする。残されたプロジェクトメンバーは人手不足のせいで売上高が減ってしまったと言うだろう。
この場合、「満たされるべき基準」は前年の売上高となる。しかし、前年と今年で経済環境は異なっている。
マクロの需要サイドを考えると、定年退職によって所得が大きく減少した人が1名増えているのである。この需要減が、回りまわってこの企業の売上高の減少につながった可能性を考慮すると、前年の売上高は本当に「満たされるべき基準」として正しかったのか、という疑問が湧いてくる。
おそらく、主観的に設定された基準の間違いが日本の至る所で生じているのだろう。人口減少社会において、主観的な「人手不足感」が強まる動きは終わることはなさそうである。
現実のデータは、それほど「人手不足」ではない
客観的な「人手不足」のデータとしては、有効求人倍率などの労働統計が挙げられる。
有効求人倍率は求人数を求職者で除して計算されており、これは実際に企業が提出した求人数のデータに基づいている。すなわち、雇用人員判断DIが企業の「人手不足感」を表しているのに対し、有効求人倍率は実際の「人手不足」を表しているということができるだろう。
前述した売上高が減少したプロジェクトチームの例で考えれば、現場レベルでは「人手不足感」があったとしても、冷静に市場規模を分析している経営企画部などでは需要の減少を把握し、「無理に人員補充をすべきではない」と判断している可能性があるだろう。
「人手不足感」が高まったとしても、有効求人倍率が高まらない可能性は十分にある。
実際に、有効求人倍率は2018~2019年と比べて低い状態となっている。「人手不足感」の統計である雇用人員判断DIとの乖離は大きい。
むろん、有効求人倍率も完璧なデータとは言えない。
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