確かに、それぞれの数字が示すインプリケーションが異なっていることは事実である。しかし、日銀短観の結果を用いて需給ギャップが推計されているわけではない。推計における不備や誤差を指摘するよりも、統計の意味を考えたほうが建設的であるように思われる。
結論を先に述べると、この違和感の正体は「人手不足感」と実際の「人手不足」の違いと解釈できる。
具体的には、日銀短観の雇用人員判断指数は雇用が「不足しているか過剰か」を問うた調査であり、筆者の言葉で言えば「人手不足感」の調査である。一方、労働力人口や総労働時間から推計される労働投入ギャップは、実際の「人手不足」のデータであることがポイントである。
生産年齢人口が急減し、慢性的に「人手不足感」
日銀短観の雇用人員判断DIは労働市場の需給バランスを示す重要なデータなのだが、企業の感覚に基づく「ソフトデータ」という点には注意が必要である。具体的には、短観の回答企業は「貴社の雇用人員」について、「1.過剰、2.適正、3.不足」の中から選択する。
そのため、例えば「3.不足」と回答した企業の中でも、①実際に人員不足で需要を取りこぼしているのか(絶対に人員拡大したい)、②人員不足だが既存のリソースで需要を満たしている状況なのか(できれば人員拡大したい)、③人員不足だが差し迫ってはいないのか(人員拡大の意欲は薄い)、判断するのが難しい。程度の差は補足しきれないのである。
したがって、①強い人手不足状態を示す状態から、③なんとなく人手不足である気がする状態にシフトしたとしても、そのこと自体は調査結果には反映されない。
日本は生産年齢人口が急速に減少しており(労働供給の減少)、慢性的に人手不足という感覚が生じやすくなっていると考えられる。その結果、企業が短観で「3.不足」と回答することが常態化している可能性があると筆者はみている。
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