大正製薬の「非上場化」投資家は納得できるのか 国内では最大規模となるMBOが抱える複数の問題
一方でLBOの手法をとらず、SPCを大正製薬HDと合併させず存続させる場合、借金を上原家の相続税対策に生かせる可能性が出てくる。
今回、SPCには96歳の上原昭二氏(大正製薬HD名誉会長)と82歳の上原明氏(同会長)も出資する。SPCが巨額の借金を背負うことで、SPCの株式の相続税評価額を下げることができるのであれば、当面は大正製薬HDに借金を背負わせる必要がなくなる。
遠くない将来に相続が生じた際、相続完了後に用済みとなったSPCを大正製薬HDと合併させ、その時点で残っている借金を大正製薬に背負わせるシナリオならば、上原一族はそのメリットを最大化できる。
『大正製薬上原家の発想~巨大閨閥と無借金経営の秘密』(永川幸樹著、徳間書店、1979年)によれば、上原正吉氏は「世襲によるワンマン経営」と「無借金」にこだわったという。
その経営方針は、正吉氏の没後40年以上が経過した今に至るまで死守されてきたが、大正製薬に借金を背負わせるタイミングが非公開化後すぐであっても、相続完了後であっても、長年守られてきた禁忌を破るのならそれなりの理由があるのだろう。
大正製薬株を保有する上場企業の対応
いずれにしても、改訂MBO指針を無視し、PBR(株価純資産倍率)1倍割れのTOB価格で株式市場から去ろうとする行為は、決してほめられるものではない。はたして2万人を超える個人投資家を抱える上場会社がやってよいことなのか。
上原一族の保有割合は4割。買付目標の下限66.57%を達成するには、株式の持ち合い先の応募(賛成)が欠かせない。その持ち合い先の多くは上場会社である。TOB価格の妥当性だけでなく、手続き的にも問題含みのTOBに応募して、その企業自身の株主に説明がつくのか。
公開買付期間は1月15日に終了する。株式の持ち合い先には、日本を代表する上場会社にふさわしい分別の発揮を望みたい。
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