大正製薬の「非上場化」投資家は納得できるのか 国内では最大規模となるMBOが抱える複数の問題

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大正製薬HDは2023年9月末時点で、2404億円の現預金と1529億円の投資有価証券で、合計4000億円の金融資産を保有している。売上高は約3000億円だから、年商の1.3倍。だが買収価格の算定時に、その金融資産がどの程度考慮されたのか、開示資料からはわからない。

DCF法による株価は、事業から生まれる将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて算出したうえで、余剰現預金などを加えて算出する。余剰現預金とは、事業を回していくうえで必要な運転資金以外の現預金のこと。現預金を必要運転資金と余剰現預金に分ける際、必要運転資金を多めに見積もれば余剰現預金は当然少なくなり、株価を安く算出できる。

DCF法での株価算出において余剰現預金をいくらと見積もったかは、大正製薬HDに限らずほかのTOB案件でも開示資料では明らかにされないのがほとんどだ。「買取価格決定の申し立てをして、裁判所から株価算定書の開示命令を出してもらい、株価算定書を見て初めてわかる」(アメリカ系エンゲージメントファンド・RMBキャピタルの細水政和パートナー)という。

大正製薬HDのように現預金が潤沢である場合、余剰現預金を少なく見積もれば、算定株価を安くする効果がより絶大なものになる。

「MBO指針」をないがしろ

前出の細水氏が今回のMBOについて、最も問題視しているのは、「『改定MBO指針』を無視した不公正なMBOプロセスになっている」点だ。

2019年に改訂されたMBO指針(経済産業省「公正なM&Aの在り方に関する指針」)では、社外取締役で構成される特別委員会を設置し、かつその特別委員会が、会社側のFAとは別に独自のFAを雇い、株価の算定を行わせることを推奨している。

一般にMBOでは、非公開化後も現経営体制を維持するケースが大半だ。買収後もそのポストにとどまりたい取締役には、一般株主よりも買収者の利益を優先するインセンティブが働きやすい。だからこそ一般株主の利益を守るための「特別委員会」の設置を求めるのであり、その構成員は社外取締役を前提としている。

MBO指針では、「社外取締役は一般株主の利益が損なわれないよう業務執行者を監督することが使命である」と明記している。

社外取締役はともすると、支配株主、一般株主、債権者、社内の業務執行者など、どのステークホルダーからも中立であることが望ましいかのように誤解されがちだが、それは間違った認識で、一般株主の利益に立つことが使命だ。その点をはっきり明示した点が、MBO指針2019年改訂の最大のポイントだった。

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