大正製薬の「非上場化」投資家は納得できるのか 国内では最大規模となるMBOが抱える複数の問題
旧住友銀行と大正製薬、そして上原家とは、銀行とその取引先のひと言では片付けられない、特別に親しい関係にある。
大正製薬は1972年に経営基盤強化を目的に、住友銀行、住友化学、住友商事の住友グループ3社と業務提携を締結。これが縁となり、「住銀の法皇」の異名をとった堀田庄三元頭取の次男・明氏を、大正製薬の中興の祖・上原正吉氏の孫娘・正子氏の婿として迎え入れた。
これ以降、現在に至るまで、旧住友銀行ならびに三井住友銀行の歴代の大物トップたちに、大正製薬の社外監査役、持ち株会社化以降は大正製薬HDの社外取締役のポストが提供され続けてきた。つまり大正製薬HDにとってみれば、旧住友銀行(三井住友フィナンシャルグループ)は企業関係においても親戚関係においても、特別すぎる間柄なのである。
元社外監査役の佃氏は、旧住友銀行を退職してから20年、大正製薬社外監査役を退いてから14年が経過していることから有識者として扱い、独立性もありとしたのだろう。だが改訂MBO指針では、外部の有識者は特別委の構成員として「否定されない」としている程度で推奨はしていないうえ、一般株主の利益を図る立場であることを明確にせよと言っている。株主総会で選任されている役員たちとは異なり、外部の有識者は一般株主に対し何の責任も負っていないからだ。
一般株主から見れば、特別委員会の3人は形式的には独立性をクリアしていても微妙な立ち位置である、と言わざるをえない。
非公開化後のことは「開示しない」
一般にMBOでは、他の株主から株式を強制取得した後、買収用に設立したSPCと買収した会社とを合併させ、買収用に借り入れた資金を買収した会社に背負わせる。借金は買収者ではなく買収された会社が返済するのだ。これがいわゆる“LBO(レバレッジドバイアウト)によるMBO”だ。
非公開化後、SPCと大正製薬HDが合併するのかどうか、合併するのであればどちらが存続会社になるのかを大正製薬HDに問い合わせたが、「非公化化後のことは開示しない」とのことだった。
このため、以下は推測の域を出ないが、LBOの手法をとると仮定すると、現在無借金の大正製薬グループは5000億円超の借金を背負うことになる。三井住友銀から借りる7272億円のうち2143億円は、上原一族が大正製薬HD株の売却代金をそのままSPCに再出資するので、その資金で返済できる。その残り約5000億円が、大正製薬グループが背負う可能性がある金額という計算だ。
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