はやみねかおるが「意地でも伝え続けたい」こと 作家の原点は生徒からの「おもしろくない」
――児童文学作家としての原点は子どもたちからの一言にあったんですね。
子どもからの「おもしろくない」という言葉は今でもよく覚えています。子どもは正直に言ってくれる。だからこそ、子どもに「おもしろい」と言わせたいんです。これが子ども向けの物語を書き続けている理由でもあります。
最初は「僕が学校へ行っているあいだ」という話を思いついて、子どもの反応を見ながらこの先どんな話に展開していこうか、毎日考えました。
教室で語った独自の物語
「みんなが学校に来ているあいだに町がどうなっているか不思議に思わない?」と聞くと「そうだね。どうなっているの?」と返ってきた。「そんなふうに思った、たけし君という子が主人公でね」という感じで話していくんです。
「たけし君はみんなと同じように学校へ行くふりをして家を出て、その後、裏口から自分の部屋に戻った。するとピンポンと音がして、お母さんが玄関へ出た。たけし君は気になって、階段を下りてみたら……、真っ黒なおもちみたいな、ぐっとぐとで、ぬるぬるのやつが出てきた。『ぐとぬる』という名前にしておこうか」と言って、黒板に「ぐとぬる」の絵を描くんです。
「お母さんは何も不思議に思わずに、ふつうに話している。いったい町では何が起こっているんだろうな」と続けると、子どもたちに「ぐとぬる」がウケたので、バケモノが町にあふれていたらおもしろいんじゃないかと考えていく。
次の日に、「たけし君が町に出てみると、電信柱に足があった」と話して、黒板に足のついた電信柱の絵を描くんです。すると、子どもたちの頭のなかで電信柱が歩き出すんですよね。子どもの想像力というのは本当にすごい。「こっちへ行くほうがワクワクする」という子どもの感覚がなんとなくわかるようになった当時の体験は、今とても貴重な財産になっています。