はやみねかおるが「意地でも伝え続けたい」こと 作家の原点は生徒からの「おもしろくない」

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――卒業後、学校の先生になられたのですよね。なぜ先生になろうと思ったのでしょうか?

大学3年生になると教育実習へ行く必要があったんですよ。長かった髪の毛を切って、背広を着て実習先の学校へ行ったんです。すると子どもたちがあたりまえのように僕を「先生」と呼んでくれた。めちゃくちゃな生活をしていた僕のような人間に「先生」と声をかけてくれて、慕ってくれた子どもたちに本当に感動しましてね。先生という仕事を真剣に目指すことを決めました。それからは大学も、ちゃんと通うようになりました。

『都会のトム&ソーヤ(20)』講談社・2023年

小学校の教師に

そうして無事に大学を卒業して、小学校の先生になりました。想像していたよりも毎日が楽しかったです。小学校の担任は、全教科自分で授業をするのが基本です。たとえば、単位を暗記するだけでおもしろくない算数のあとに、理科の実験で子どもたちを楽しませることができる。全教科を自分で教えながら、「こんなに毎日新しいことができるんだ」という気持ちでした。

でも、僕は授業が下手だったんですよ。45分の授業が40分で終わってしまうんです。5分間、子どもたちは退屈ですよね。するとある子が「先生、何か話をして」と言うので、「わかった」と。

本だけはたくさん読んできましたからね。黒板に絵を描きながら、星新一のショートショートを話すと、みんなが授業中よりもはるかに集中して僕の話を聞いてくれたんです。

うれしかったので毎日続けていたのですが、子どもたちが理解できるような話のネタがついに切れてしまいました。なので、星新一ではなく、僕が中学生のときに自分で書いたショートショートの話をしたんですよ。すると子どもたちが、「今日の話はおもしろくない」と(笑)。

これがプロとアマチュアの差なのか、と感じましたね。「こうなったら子どもたちにおもしろいと言わせたい」と思いました。じつは、ずっと小説家になりたいと思っていたので大学卒業前まで短編は書いていたんですね。中断していたその物語をあらためて書き進めていくことにしたんです。

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