「誰かを罰するのは当然か」問う『失敗の科学』 ベテラン機長が"容疑者"になった航空機事故

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視界不良の状況では、安全に滑走路に入るためさまざまな計器が頼りとなる。オートパイロットやその他の制御システムを駆使するこの着陸方法は決して容易ではないが、機長の能力を持ってすれば不可能ではなかった。

ただその複雑さゆえに、守らなければならない安全規定がいくつかある。機体の操縦に神経を使う中で、不要なリスクを冒さずに済むように定められたものだ。この事故に関しては、その規定を故意に無視したという嫌疑が機長にかけられた。

機長にかけられた嫌疑

着陸準備に入った際、機体のオートパイロットは、ヒースロー空港から出ているふたつの誘導電波を受信できていなかった。

滑走路への進入方向(横位置)や降下経路(縦位置)を示して、機体を安全に導いてくれる誘導電波は、安全な着陸には欠かせない。受信できなければ、機体が滑走路から左右にずれていても、高度がずれていても判断できないからだ。

地上1000フィート(約300メートル)に到達するまでに誘導電波を受信できなければ「ゴーアラウンド」(着陸を断念して再上昇)する、というのが規定上のルールだった。

そして上空を旋回しながら問題が解消されるのを待つか、天候が比較的ましな空港に向かう。しかし機長は、地上1000フィートに到達した時点で誘導電波を受信できていなかったにもかかわらず、ルールを無視してさらに降下を続けた。

255人の乗客を乗せた機体は、その後地上750フィート(約230メートル)まで降下。そのとき機体は滑走路のはるか右に逸脱しており、外周のフェンスさえ越えて、空港沿いの高速道路と平行に飛行していた。しかし濃霧のため、クルーはその事実に気づいていない。そのまま降下を続ければ、いずれ高速道路沿いのホテル群に間違いなく衝突する。

地上125フィート(約40メートル)まで降下したとき、ようやく機長はゴーアラウンドの指示を出したが、ほんの一瞬遅かった。エンジンを加速して機首を上げ始めた時点で、機体はさらに50フィート(約15メートル)降下し、高速道路沿いのホテルの屋根をかすめた。

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