「誰かを罰するのは当然か」問う『失敗の科学』 ベテラン機長が"容疑者"になった航空機事故
フランクフルト上空に到達したあたりで、状況は一気に深刻になる。ヒースロー空港は霧が低く立ち込めて視界を塞いでいるため、「カテゴリーⅢ」での着陸(目視では滑走路をほぼ確認できない状況での計器着陸)を行わなければならないとの情報が入った。計器着陸のカテゴリーの中では、最も難度が高い。
ここで問題が生じた。副操縦士はブリティッシュ・エアウェイズでの勤務経験が比較的浅く、高難度のカテゴリーⅢに関してはまだ訓練さえ受けていなかったのだ。そこで機長はブリティッシュ・エアウェイズのオフィスに無線連絡をとり、副操縦士に資格なしでの着陸許可を許可してもらった。
やがてイギリス上空に到達した頃、副機長は席に戻った。ノベンバー・オスカーはロンドン上空で待機経路に入り、ヒースロー・アプローチからの進入許可を待つ。
ここまで機長は15分の休憩を1度とっただけで、もう合計5時間以上ほぼ単独で操縦を続けている。視界は最悪だ。燃料も残り少ない。
3人のクルーは、天候がましなほかの空港への着陸を検討した。だが機長が航路変更を決定しようとしたそのとき、ヒースロー・アプローチからようやく進入許可が下りた。
想定外の連続で手一杯に
ところがここでまた新たな問題が浮上する。ヒースロー・アプローチは、霧がかなり晴れて天候条件が変わったと言い、当初予定していた東側ではなく、西側からの降下を要請したのだ。
急きょ空港への進入方向が変わったことで、コックピットは一気に慌ただしくなる。マニュアルの図表を頼りに、新たな進入経路を計算し直さねばならない。コックピットに緊張が走る。クルー同士のスムーズな意思の疎通は次第に困難になり始めた。
しかし、ここでさらに予想外の問題が起こる。滑走路の誘導灯の一部が点灯していないという無線連絡が入ったのだ。もちろんこれだけでは大した問題ではない。もともと霧のせいで視界が悪く、何も見えないも同然だ。
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