思春期の「校則格差」が招く自己効力感の二極化 学校のプロが「学校に染まるな」と言う理由

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私立・公立にかかわらず、各地域で名門校として一目を置かれていた一部の学校には、政治意識が高く、世の中の潮流を正確に把握しながら、十分な理論武装をして学校側と渡り合うことのできる生徒たちが一定数いました。その結果、彼らは自由を獲得するのです。でも、それよりも偏差値的にランクの下がる学校においては、そこまでの交渉力をもつ生徒集団が組織されず、逆に生徒たちの〝反乱〞は鎮圧され、あるいは懐柔され、ますます学校に管理されるようになりました。

こうしてあくまでも結果的に「偏差値の高い学校は自由、低い学校は管理される」という状況が完成しました。おそらくその状況に見慣れてしまった大人たちが勝手に偏差値の高さと自律性を結びつけるようになったのではないかと私は考えています。

偏差値差別が社会を瓦解させる

「偏差値が高い子だからこそ自律できる」という言説は、「偏差値の低い子は自律ができない」と言い換えられます。この状況では、偏差値を人格の代理指標として、偏差値が低い、すなわち人格的質で劣るひとの自由は制限されて当然であるという考えが、多くのひとの無意識に刷り込まれてしまいます。

偏差値によって学校の価値だけでなくそこに通う生徒たちの素行までを決めつける。その〝教育効果〞は絶大です。「お前は泥棒だ」と言って育てれば子どもは立派に泥棒に育ってくれるというように、大人の〝期待〞通りの自己像を子どもはもちます。「偏差値の低い学校に通っているお前たちは規則で縛ってやらないと自律できない」と言って育てれば、子どもたちは自律しないように育つ。呪いにかけられるのです。

この社会では、12歳や15歳時点でのペーパーテストの点数で、「君は自律ができるひと」「君は自律ができないひと」というレッテルを貼っている可能性があります。それによって青春時代に得られる自由や自己効力感にまで格差が生じるのであれば、その格差が子どもたちの人生に与える影響はおそらく、学歴格差がもたらす影響よりも甚大です。社会に出てからも「どうせ自分は……」と思ってしまいかねません。

日本では、進んだ高校のレベルによって、そのあとの学歴や社会的地位や年収に差ができやすいことが知られています。日本の受験制度がそんなに精度高く人間の潜在能力を予測しているとは考えにくく、おそらく中高時代に刷り込まれた自己効力感の差がその後の人生に長く影響しているのではないかと思われます。

もし中高生の立場で偏差値差別を感じたら、せめて心の中で、一人高校紛争をしてください。決して屈しないでください。

いや、ほんとは、そんな状況があるのなら、一刻も早くそれを変えるのが私たち大人の責任なのに、すぐにはそれができないのがたいへん申し訳ないのですが、地道なレジスタンスを私も続けるつもりです。みなさんも、少なくとも差別する側にはならないでください。

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おおたとしまさ 教育ジャーナリスト

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Toshimasa Ota

「子どもが“パパ〜!”っていつでも抱きついてくれる期間なんてほんの数年。今、子どもと一緒にいられなかったら一生後悔する」と株式会社リクルートを脱サラ。育児・教育をテーマに執筆・講演活動を行う。著書は『名門校とは何か?』『ルポ 塾歴社会』など80冊以上。著書一覧はこちら

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