松井:「挨拶当番」以外にも、社風を変えるために、役職の有無に関係なく「さん付け」で呼ぶ習慣も徹底させました。部門長に5段階の「挨拶と『さん付け』チェック表」を渡し、毎日の終礼で、社員に「挨拶」と「さん付け」ができたかどうかを自己申告してもらいました。
遠藤:自己申告方式も、社員に「やらされ感」を持たせないためですか?
松井:やはり、強制では身に付きませんからね。さらに「ノー残業デー」を経て、「毎日18時半退社」へと進めていきました。
遠藤:朝の挨拶を皮切りに、「社風改革」を本格化されたわけですね。しかし、18時半退社の徹底はかなり難しそうですが、いかがでしたか?
松井:やはりノー残業デーの時点で、自宅に仕事を持ち帰る社員がかなりいました。そこで全員の仕事量を1割減らすなど、業務内容の見直しも進めたのです。
遠藤:仕事量の削減を実現された点が、会社の本気度を全社員に伝えるうえで、とても重要だったと思います。そもそも、仕事を自宅に持ち帰るだけなら、社員の方々は18時半退社の効果を実感できませんしね。
成功体験から脱却するためのマニュアル
遠藤:話を少し戻しますと、松井さんが、従来の社風からの脱却を決意された、いちばん大きな理由は何だったのですか?
松井:当時は優秀な社員個人の経験を重視するあまり、極端に言えば、店長が代わると店頭ディスプレーや店舗レイアウトまでがらりと変わり、現場もかなり混乱していました。
遠藤:それだと、常連のお客様にも不便を強いかねませんね。
松井:そうなのです。また、ある売り場の業績が悪いと、原因をきちんと究明せずに、「店長がダメだ」という話にもなりやすい。その結果、店長が何回も代わり、「時々はうまくいく」という、まだまだ幼稚な組織だったと思います。
遠藤:特定の社員に依存するあまり、全社員が本来共有するべき業務上のスキルやノウハウが、本部や店舗にもあまり蓄積されていなかったわけですね。
松井:ええ。無印良品ブランドが始まって20年が過ぎた頃でしたが、それは西武百貨店や西友を含めて、当時のセゾングループの弱点でしたね。
遠藤:セゾン文化は、ひとつの時代をつくりましたからね。その成功体験が強烈であるほど、否定するのは大変だったはずです。だからこそ、朝の挨拶レベルから、社員に新たな習慣をしみ込ませる必要があったわけですね。
松井:そのとおりですね。ひとつの成功体験は、時代が変わると、むしろ会社の足を引っ張る原因になりがちですし。
遠藤:そこで「社風改革」を経て、特定の個人に依存せず、「誰でも一定の成果を出せる」マニュアルづくりに取り組まれるわけですね。対談後半は「視察殺到!無印良品のマニュアルの中身」という観点から話を伺います。
(撮影:梅谷秀二)
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