「深刻な観光課題」を解決、需要を維持する方法 星野代表が取り組む「長門湯本温泉」再生への道

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だが、こうした大きな変化をともなう計画は住民全体の合意形成が難しく、星野氏は「最初は、どこかで行き詰まるのではないかと思っていた」という。それでもプロジェクトが前に進んだのにはいくつかの要素があった。

若手が中心となって、前向きな取り組みが行われた

大きかったのは、稼業を継ぐべく地元に戻ってきていた旅館の跡取りたちや、伝統工芸「萩焼」の若手作家たちなど、地元の30代、40代の若手の間に「長門湯本は、このままじゃダメだ」という危機意識が共有されていたことだという。

こうした若手が中心となって、前向きな取り組みが行われた。まちづくり計画策定の翌年には、旅館事業者と萩焼の作家がお金を出しあって、萩焼の器でコーヒーやケーキを食べられるカフェが誕生するなど、小さいながらも地元の人たちの思いが形になりはじめた。

また、住民との合意形成の進め方も注目すべきだ。まちづくりで住民の合意を得るのが難しい事柄として道路空間の利活用がある。たとえば、車の通行量を減らすためにいきなり「車道を狭めて歩道を広げたい」「一方通行にしたい」と言っても、当然のことながら反対意見が出る。

長門湯本では、「秋のこの時期だけ、車道の一部を狭めてベンチを置いてみよう」といった社会実験の取り組みを3年間にわたって行い、その結果、「子どもが走り回れて、意外によかった」といった意見も聞かれるなどした。結局、一方通行は実現しなかったが、温泉街の中心部では歩道が拡張され、ベンチや植栽が置かれるなど、歩きやすく魅力的な空間が実現した。河川空間の利活用や夜間照明(ライトアップ)の導入に関しても社会実験を行った。

こうして道路や河川空間のハードやインフラの整備は2020年4月までに完了。また、施設が老朽化し、行政運営で赤字が続いていた公衆浴場「恩湯」は、公募による民間資本での建て直しが進められ、2020年3月にリニューアルオープンした。さらに星野リゾート「界 長門」も同時期に開業するなど、2020年春までに現在の温泉街の骨格が、ほぼ完成した。

2020年3月にオープンした星野リゾートの温泉旅館「界 長門」外観(筆者撮影)
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