「深刻な観光課題」を解決、需要を維持する方法 星野代表が取り組む「長門湯本温泉」再生への道

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ステークホルダーツーリズムとは観光・交通事業者のみならず、旅行者や地域コミュニティー(生活者・地域経済・環境)を含むステークホルダー(利害関係者)全体がフェアなリターンを享受しつつ、サステイナブルな観光を実現していこうという考え方である。具体的には、これまで観光地の業績を評価する指標として使われてきた入込客数や宿泊客数だけでなく、新たな6つKPI(後に詳述)を用いるなどする。

この考え方を実際に適用して、温泉地の再生プロジェクトを進めているのが、山口県の長門湯本温泉だ。現地を取材したのでその様子も踏まえながら、どのような取り組みが行われているのか紹介しよう。

温泉地再生への道のり

長門湯本は山口県北部、萩市に隣接する長門市の山あいにある。温泉街の中心に湧く「恩湯(おんとう)」は600年の歴史を持つと伝わり、2016年には老舗旅館の大谷山荘で日露首脳会談が行われた。

しかし、温泉街全体としての集客は昭和の団体旅行全盛期以後、右肩下がりが続き、2014年には、江戸時代以来150年の歴史と地元屈指の規模を誇った白木屋グランドホテルが破産。同ホテルは温泉街の中心部にあり、これを放置すれば、長門市のイメージダウンにつながると考えた当時の市長・大西倉雄氏が主導し、議会や市民の批判を受けつつも、公費による土地建物の買い取りと解体を行った。

さて更地にしたこの土地をどう生かすべきか。大西氏が思い描いたのが、各地で多数の再生案件を成功させてきた星野リゾートを誘致することだった。大西氏は自ら東京の星野リゾートの事務所を訪問し、星野氏の説得を試みた。

600年の歴史を持つ入浴施設「恩湯」の浴室(写真:長門湯本温泉まち)

あるメディアは、このときの大西氏の熱意が星野氏の心を動かしたように伝えているが、実際はそのような単純な話ではなかった。星野氏は次のように明かす。

「現地(長門湯本)にも足を運んでみたが、すごく難しいと思った。三角形の土地で周囲も寂れていた。仮にうちだけが新しい施設を建てても、周囲に魅力がなければお客様を呼ぶことはできない」

では、なぜ進出してみようと思ったのか。

「進出してみようとは思わなかった。白木屋グランドホテル跡地を単体で開発して、点として良くなるだけでは採算が合わないのは明白だった。こういう場合は実現が難しい条件を提示して、先方からお断りいただくのが一番いい。そこで、まちづくりのマスタープランをつくり、そのコンセプトに合意して、温泉街全体を面で再生するよう皆が動いてくれるのであれば、うちも投資しますとお伝えした」

2016年に策定された「長門湯本温泉観光まちづくり計画」掲載図。回遊性のある温泉街にする方向性が打ち出された(画像:星野リゾート)
次ページたいていは二の足を踏んで断られるのだが…
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