「深刻な観光課題」を解決、需要を維持する方法 星野代表が取り組む「長門湯本温泉」再生への道
こうしてまちづくりが完了すると、今度はできあがったものをマネジメントしていくフェーズに入る。長門湯本でこれを担うのが、長門湯本温泉まち株式会社(以下、まち会社 前出の伊藤氏が代表)だ。長門湯本では入湯税(全国一律150円)にプラスして150円を上乗せ徴収し、この上乗せ分を活動原資として、まち会社が地域の司令塔として温泉街の持続可能性を高めていく役割を担っている。
まち会社の実務を統括するエリアマネジャーに就任したのが、経済産業省出身の木村隼斗氏だ。木村氏は地方創生人材支援制度で長門市に派遣され、行政の立場から長門湯本のまちづくりに携わった後、経産省を辞職し、現職に就いた。
まち会社の取り組みについて木村氏に尋ねると、星野氏が提唱するステークホルダーツーリズムのKPIを活用しているという。具体的には以下の6つのKPIを元に年2回、星野氏を含む外部有識者等をメンバーとする評価委員会において、取り組み内容を評価する仕組みだ。
今後の観光地運営において不可欠な「6つの視点」
①「温泉地ランキング」にランクインするには満足度の高い温泉地であることが必要だが、2016年にマスタープランを策定した段階で、星野氏が「全国温泉地ランキングトップ10に入ることを目指す」という目標を掲げた。高すぎる目標のようにも思えるが、「長門湯本をもう一度人気のある場所にしようだとか、上質な温泉街にしようと言っても、なかなかイメージが共有されない。当時の私の役割は、皆さんにがんばっていただくためのわかりやすい夢を掲げることだった」と星野氏は打ち明ける。
②「稼働率」は、ホテル業界で用いられているRevPAR(レヴパー)を見るようにしている。客室稼働率×客室平均単価で算出するもので、いくら稼働率が上がっても部屋を安売りすればこの数値は上がらない。つまり、適正収益を上げていくために重要な指標となる。
③「投資の創出内容」に関しては、飲食店や立ち寄り場所の数は増えてきてはいるものの、まだまだ少なく「長門湯本にもう1泊滞在してみよう」という気持ちになりづらいのが現状だ。
しかし、今後、宿泊やアウトドアアクティビティへの送客等を担う新たな複合施設がオープンする計画がある。その開発を担うのは、東京の日本橋や「しまなみ海道」の瀬戸田での実績のあるStaple(ステープル)であり、こうした質の高い投資の動きが出てくるのは、これまでまちづくりを粛々と進めてきた成果であろう。
④「生活者関与度」は計るのが難しそうな指標だが、星野氏はその重要性を「その地域の生活者が持っている文化こそが観光の真の魅力であり、生活者の関与なしに観光産業は成立しない。また、生活者が観光にきちんとコミットし、意見を述べる機会があれば、日帰り客数を制限するなどオーバーツーリズムを抑止する動き等も、自然と出てくるはずだ」と語る。
⑤「社員の満足度」に関しては、日本の観光業は他産業と比べて従事者の待遇が低いことが問題視されてきた。根本的な解決を図るには、繁閑のばらつきのある客数を年間平準化して業界全体の収益を上げるなど、社会全体での取り組みが必要とされるが、各地域でできることもある。長門湯本では、空き建物を旅館従業員用のシェアハウスとしてリノベーションするなどの取り組みを行っている。
⑥「メディア露出量」については説明不要と思われるが、近年の長門湯本ではメディア露出の件数だけでなく、視察の件数も増えているという。
この6つのKPIを元に具体的にどのようにデータを集計・評価するかは、各観光地における工夫次第ということになる。重要なのは、今後の観光地運営においては、この6つの視点が不可欠であり、なおざりにしてはならないということであろう。
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