裏金システムで露呈した自民党「構造腐敗」の本質 存亡の危機に直面、問われる岸田首相の判断

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東京地検特捜部は臨時国会が12月13日に閉幕したのを受けて、本格的な捜査に乗り出した。自民党最大派閥の錬金術を解明するという「検察の威信」をかけた捜査が繰り広げられる。19日に着手された家宅捜索では、安倍派の事務所から関係書類が大量に押収された。事務担当者、議員秘書が次々と事情聴取され、所属の衆参両院議員への取り調べも予定されている。

岸田首相は14日、安倍派出身の閣僚4人、松野官房長官、西村経産相、鈴木淳司総務相、宮下一郎農林水産相を更迭、それぞれの後任に林芳正、斎藤健、松本剛明、坂本哲志各氏を任命した。安倍派の副大臣5人と政務官1人も交代。萩生田政調会長、高木国対委員長も年内には更迭される。

安倍派内には「人身御供だ」という不満が募っているが、当面は岸田首相の判断に従わざるをえない状況だ。派閥の会長も決まらないまま、幹部間の綱引きが続いていたが、裏金問題の急展開で、今後は分裂・解体に向かう可能性が大きくなった。

「安倍派切り」で難局をしのごうという岸田首相だが、これまで安倍派に依存していた姿勢を一転したことには、安倍派以外からも批判が出ている。この状態で自民党内の不協和音を抱えたまま、年明けの通常国会を乗り切れるとは思えない。

「ポスト岸田」をうかがう石破茂元幹事長は、来春に2024年度予算を成立させた直後の首相退陣も「ありうる」と語っている。

大企業のパーティー券購入は返礼?

安倍派の解体、岸田政権の崩壊にとどまらない。自民党政治が存亡の危機にある。この10年、安倍氏が中心となって進めた政治は、民主党政権を厳しく非難し、アベノミクスによる金融緩和で大企業の業績を回復させた。大企業が多額のパーティー券を購入してきたのは、その“返礼”とも見える。

また、安倍氏は集団的自衛権の容認を柱とする安全保障法制を、野党や憲法学者が反対する中で、強引に成立させた。それらの実行部隊となったのが最大派閥の安倍派だった。

その安倍派勢力の拡大と維持に、派閥パーティーの裏金が使われていたことは明らかだ。そうした体質をどう改めるのか。岸田首相は「自民党の体質を一新すべく、先頭に立って戦っていく」と語っている。岸田首相が決意を貫き、自民党の改革が進むのか、それとも言葉だけに終わって、改革が実現せず、自民党が終焉の道を歩むのか。日本政治が大きな岐路を迎えている。

星 浩 政治ジャーナリスト

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ほし ひろし / Hiroshi Hoshi

1955年生まれ。東京大学教養学部卒業。朝日新聞社入社。ワシントン特派員、政治部デスクを経て政治担当編集委員、東京大学特任教授、朝日新聞オピニオン編集長・論説主幹代理。2013年4月から朝日新聞特別編集委員。2016年3月からフリー。同年3月28日からTBS系の報道番組「NEWS23」のメインキャスター・コメンテーターを務める。著書多数。『官房長官 側近の政治学』(朝日選書、2014年)、『絶対に知っておくべき日本と日本人の10大問題』(三笠書房、2011年)、『安倍政権の日本』(朝日新書、2006年)など。

 

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