ハリウッドスターがベテランばかりになった理由 日本人の誰もが知る若手スター不在の寂しい現状

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もっとも、その前の時代にもそれは言えることで、『E.T.』、『ハリー・ポッター』、『ジュラシック・パーク』、『ライオン・キング』など、その年の首位を飾った映画は、「誰が出ているから」で成功したものではなかった。

つまり、年間トップになるような映画は、そもそもそういう作品なのだろう。それでも、その頃、その年の首位にまではいかなかったものの成功した映画の多くは、大人から子供にまで幅広く愛されるスターが出ているものだったのだ。当時は、そういうスターがたくさんいたのである。

だが、スタジオが、大型予算をかけて大きく儲けるか、ホラー映画のように思いきり低予算で作り、そこそこ稼ぐかの両極端な戦略を好むようになる中、その中間である作品は作られなくなっていった。

かつてはメグ・ライアン、ロバーツ、ディアスなどが主演するロマンチックコメディが愛されたが、高いギャラが必要な有名スターを使って、ある程度しか儲からないとわかっているこのジャンルの映画を作ることを、スタジオはしなくなった。こうしたことも、長い時間をかけて若手スターがビッグスクリーンでじっくりと魅力を発揮し、観客と関係を作っていく機会が減ったことに関係していると思われる。

スタローンは、「世界で最も知られた顔」と呼ばれた。現在は半ば引退しているディアスも、老若男女問わずファンがいた。ロバーツの笑顔は「100万ドルのスマイル」と呼ばれ、世界を魅了した。対して、先に挙げた現代の若手スターであるシャラメやゼンデイヤは、年配の方は知らない人も多いのではないか。

スターは多様で身近な存在に

だが、それは、文化の他の部分についても言えることだ。選択肢が増え、好みが多様化し、作品の絶対数が増えた現代は、音楽にしても、昔のようにすべての世代に受けるヒット曲は出なくなっている。

一方で、若い世代は多様なものを受け入れるため、昔なら出てこられなかったような人たちが才能を発揮するようになった。注目が一部の人に集中するのではなく、広く浅い時代になったということだ。もっと身近な感じにもなったともいえる。

多様化へのプッシュもあるし、今後はますますそうなっていくだろう。それは、良いことである。とは言いつつも、筆者の年齢かそれ以上の映画ファンにとっては、王道のハリウッドスターが与えてくれた、普通の人には手の届かないところにいる存在が減っていくのは、なんとなく寂しくもあるのではないかとも思わざるをえない。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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