無印良品が過疎地で「移動販売」を続ける意味 無印良品はいかに「土着化」しているか(3)
2020年6月、ようやく移動販売のルートができ、2023年10月には週に4日、日替わりでルートを変え軽トラで訪問している。何度か経路を見直し、今では買い物をする場所に困っている人々の大切な集いになるまでになった。
酒田市の中町は、かつて地域一の繁華街として栄えていたが、次第にシャッターを閉めたままの店が増えた。移動販売を始めて8カ月後の2021年2月、閑散とした商店街の一画に、一時的な無印良品のポップアップショップも開店した。
移動販売を求めて次々とやってくる人々
この年の7月、筆者も移動販売の様子を見に行った。この日は、東北公益文科大学を卒業し地域の復興を手伝う若い酒井惣一朗が移動販売を行っていた。 出発前に市内の豆腐屋さんに仕入れに行く。豆腐とあげは絶品で、中山間地区の方は楽しみにしているそうだ。
いよいよ出発の時間になる。いつの間にか小さなキャンピングカーのような軽トラと、白い乗用車も待機していた。両方ともNTT東日本関連で軽トラには訪問看護師も同乗。乗用車は宮城から来た女性社員の運転だ。
まずは下黒川地区の駐車場に出向くが、あいにくの雨で集まる人は少ない。しばらくすると、日焼けしたおじいさんが、何かをまとめ買いしている。手にしているのはかかとを直角に編んだ定番商品「足なり直角靴下」だ。「これ、評判いいんだ。みんなに配るんだ」。そう言って嬉しそうに代金を渡す。
続いては、花をたくさん育てている農家の前。買い物がてらに、ご近所さん同士で談話を楽しむ場所だ。
この日に同伴した宮城のNTTの女性は、農業のIT化に取り組もうとしていた。だが、どの農村に、どのような作物があり、何が課題かわからない。また、機器を設置しても、各農家を訪問して定期的にメンテナンスをしなくてはいけない。どの順番でどこを回ればよいかルート作りをするのは容易ではないという。
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