無印良品が過疎地で「移動販売」を続ける意味 無印良品はいかに「土着化」しているか(3)

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雨も上がり、のどかな農村地帯に、ちょっとした憩いの場ができる。お客さんたちが立ち去った後に、われわれも休息することにした。

「あのジュースを飲んでいた男の子が、この村の最後の小学生なんです」と、酒井が話してくれた。地域の小学校はすでに統合され、離れた学校にバスで通学している。中学校は、もっと遠い。彼が成長すると、もう村に子供はいなくなるのだろうか。

今日の売り上げを聞いてみた。このような雨の日はあまり売り上げあも上がらない。見ると、豆腐とあげが数切れずつ残っている。出発前に、何度も注文を確認していたはずなのに。「お年寄りの中には注文したのを忘れる人もいて。今日は雨だから停留所に来なかったんだと思います」。

もちろん豆腐屋への返品は利かないだろう。「これは僕が買って今晩のおかずにします。豆腐が大好きなんですよ」。酒井は、そう言って笑う。

買い物困難者の「インフラ」になる

ビジネスは、効率化を重視するものかもしれない。投資を抑え、最大の利益を上げることを目標とする。私の近所のユニクロは、とても繁盛している。多い日は従業員1人あたり、1日に50万円以上の売り上げもあるそうだ。

さて、今回の酒田市日向の訪問販売は、どうだろう。人や車を手配し、1日回っても売り上げはあまり見込めない。また、今後のお客さんの急増も望めない。

松本は、これから酒田での取り組みを説明してくれた。まずは、買い物が困難な人の必要としている商品を調べ届ける。そして、見守りの役割もまかなえるようにしたい。なんとか地域の人と協力し、商いを通じて少しでも人口を増やしたい。2023年10月には鶴岡市や庄内町まで距離を伸ばした。

無印良品が作った訪問販売のルートは、もう地元の生活の一部だ。これから、健康維持活動やIT農業も加わるプラットホームになるかもしれない。

しかし、良品計画は株式会社である。現在の経営の主流は、短期的にも利益を追求し、株価を上げ還元を求められる。これまで紹介した、無印良品の地方再生のケースは、現代の経営手法と矛盾しないのだろうか。

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