無印良品が過疎地で「移動販売」を続ける意味 無印良品はいかに「土着化」しているか(3)

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幸い酒田では無印良品が週に4回、異なる地域を訪問するルートを開拓している。各停留所には定期的に人々が集まる。このような活動に便乗して、農家のIT化を進めることはできないか、NTTでは検討をしているという。

誰かが何かを始めると、自然と人のつながりができるものだ。松本が地道に築いた訪問販売のルートは、中山間地域の生活のプラットホームになるかもしれない。無印良品の軽トラと共に、訪問看護や農業支援のIT技術者が定期的に村々を訪れる日も来るのだろうか。

1人暮らしのおばあさんの家も回る

雨が強まってきた。酒井は、停留所に泊まるたびに、丁寧に荷台の屋根にたまる雨をふきとる。一番の高台にある停留所に止まった。ここは山奥の一軒家で、おばあさんが1人暮らしだ。周りに集落はないので、実質はこの家だけのために停車する。

酒井は車を止めてしばらく待つ。10分経っても何も起こらない。
「こんにちは」
戸は開いており、土間が見える。
「ああ、ムジの日じゃね」
裏の畑から、おばあさんが歩いてきた。どうやら訪問販売のことを忘れていたようだ。迷わず、無印のエビせんを山ほどかごに入れた。1人でこんなに食べられるのだろうか。

「孫が、よろこぶから」
おばあさんには娘さんがいて、月に一度ほど様子を見に来るそうだ。その時に、お孫さんも連れて来る。山形では手に入りにくい、このエビせんを目当てに一緒について来るという。

「また来週、待ってる」
我々が後にした民家の前で、ずっと手を振っていた。

最終目的地に着いた。無印の音楽を聞いて常連の家族が集まる。母親らしき人は食材を確認している。子供たちは飲み物とお菓子を見ている。そこに遅れて高校生くらいの女子も現れた。

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