先輩後輩間の私的なやり取りも盛んで、日本人より圧倒的に横のつながりが強い。会費をとって特別なセミナーをする保護者もいるそうだ。
実際中国系の生徒が増えているのかを学校に尋ねると、男子御三家の筆頭である開成学園からは「中国を含む海外にルーツを持っている生徒が増えている感覚はあり、全体の5〜10%程度と考えております」との回答があった。麻布学園からは「学外の相談会に参加した印象では、昨年ぐらいは中国系の方が多くいらっしゃったように思う」とのコメントがあった。
北京大より東大のほうが入りやすい
そもそも中国人の教育熱はどのように生まれたのだろうか?
中国のトップ大学の卒業生で、子どもを東京で最難関の私立中高一貫校の一つに通わせている女性によると「北京大学のような中国の難関校に合格するよりも東大に入るほうがずっと簡単」だそうだ。
「まず学齢人口の規模が全然違います。そして中国人は全員が『鶏娃(ジーワー)』です。日本でそういう人は一部だけですから」。「鶏娃」という俗語は、極端に教育熱心な親のことを指す。
学問で官僚を選抜する「科挙」の伝統がある中国には、教育しだいで運命は変えられるという考え方が強く根付いている。
新中国成立後も、1990年代頃までは努力次第で底辺から上に登りつめられるという感覚があった。
だが、いまや特権や「関係」(グアンシ、コネのこと)がなければいい学校に入れないという風潮ができつつある。また中国の全国統一試験では芸術加点があるため、子どもにバイオリン、ピアノ、習字など日替わりで習い事をさせることが一般的になった。教育のコストはうなぎのぼりだ。
2021年には中国で「過度な競争」を意味する「巻(チュエン)」が流行語となった。今回の取材中に在日中国人から何度もこの言葉を聞いた。中国の大学進学率は5割を超え、日本並みになった。大卒者の増加と経済減速によって若年失業率が高まっていることを鑑み、中国政府は職業教育機関の強化に動き出している。
「大学さえ出ればいい会社に入れて人生安泰」という時代は過ぎ去り、名門大学へのレースは激化の一途だ。子供が受験で失敗すると一家が没落しかねないという焦燥感が広がっている。中国で過熱する受験競争が日本へ伝播してきた側面もあると言えよう。
現在、子供を中学受験させているのは留学生出身の長期在住者が主体だ。いま中国からは新たに日本への移住を目指す「新移民」の動きが加速している。いずれ彼らが中学受験に参戦することがあれば、戦線はますます過熱するかもしれない
そこでの勝者は、私立のトップ校を経由してさらに名門大学を目指すだろう。中国にルーツを持つ人々がやがて日本のエリート層に大きな地歩を占めるようになることを予感させる。
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