黄さんのような発想は決して例外的ではない。そして、日本で育てるからには、そのなかでトップを目指すのが中国人だ。男子であれば、SAPIX経由で筑波大学附属駒場、開成、麻布、女子であれば、桜蔭、豊島岡、女子学院、雙葉といった名門校を目指すことがもはや当たり前になっている。
黄さんは、SAPIXのなかでも吉祥寺校、王子校、お茶の水校、東京校、武蔵小杉校などには中国人の生徒が多いと話す。
小学校1年生の子供を東京都心のSAPIXに通わせる別の中国人ママは、「校舎全体の中国人比率は15%ほど」と証言。さらに、東京北部のSAPIX校舎に勤める教師は「年によっても変わりますが、(中国にルーツを持つ生徒の)比率は25%くらいです」と認める。
私立受験はよく「情報戦」と言われるが、中国人の団結力は桁違いだ。日本人のまったくあずかり知らないところで独自の情報網を発達させている。実は、SAPIXに子供を通わせる中国人は前出のWeChatグループで「裏SAPIX」とも言えるようなシステムを構築しているのだ。
もともとは学年ごとに、情報交換のためのWeChatグループが数多く存在してきた。しかし数年前に、広い人脈を持つ中国人保護者がリーダーとなってこれらを統一。これによって先輩から後輩へと情報を継承することが可能となった。
「裏SAPIX」内部での熾烈な競争
「裏SAPIX」グループの巨大化に伴い、内部でも競争が熾烈になってきた。黄さんは、「親同士でも、子供同士でも階級ができちゃいます」と言う。成績以外にも、収入など社会的条件で誰が上で誰が下かという意識が生まれる。
本物のSAPIXと同じように、子供の偏差値に応じていくつかの小グループに分けられている。例えば、黄さんは上から二番目に当たる「偏差値55〜60」のグループに所属していた。そして、これも本物のSAPIXと同じように、テストの結果に応じて定期的にメンバーの入れ替えがあるのだ。
その小グループでは、SAPIX本体の宿題に加えて、当番の親が毎日交代で子供向けに算数の問題を出すことが義務付けられていた。子どもによる解答を写真で撮ってメンバー同士で答え合わせをするのだが、「問題を3回やらなかったり提出が遅れたりすると、その親がグループから追放になります」という厳しさだ。
さらに年に数回、ZOOMで中国人保護者の先輩が自分の経験やノウハウをシェアする仕組みもあった。どんな苦労があったのか、どのように毎日を過ごしていたのか、どの先生がいいのか、一番効率がいい勉強法はどういうものか、ひいては過去問や志望校の内情まで、ありとあらゆる情報がシェアされる。
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