渋谷「異例」タワマン開発、問われる区の説明責任 小学校の容積を民間へ配分する珍しいスキーム

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渋谷ホームズの敷地は、区立神南小学校と隣接する。神南小学校は老朽化が進んでおり、昨年に建て替えの方針が打ち出された。再開発事業では小学校用地と渋谷ホームズの敷地を同一街区として、一体的な再開発を進める計画。ここで用いられるのが、「容積適正配分型地区計画」だ。

西側から見た渋谷ホームズ。右が神南小学校、左に渋谷区役所(記者撮影)

容積適正配分型地区計画は文字通り、地区内で容積を配分する仕組み。高容積を使うことが難しい土地がある場合に、余剰容積分を他の敷地に振り分け、その敷地で高容積の建物の建設を可能にする。低容積部分の存在によって、環境の維持を図ることも目的とされる。

このスキームは民間施設の再開発で利用された例はあるものの、公共施設に活用されるのは、全国でも「おそらく今回が初めて」(区の担当者)となる。

マンションの容積率は倍の1000%に

今回の地区計画では、この仕組みを使って小学校の容積率の一部を渋谷ホームズに振り分ける。その割合は小学校の容積率500%のうち約90%分。また渋谷ホームズの北と西を走る区道を廃道にして、渋谷ホームズの敷地とする。

これらの措置によって、渋谷ホームズの容積率は現在の500%から650%に増える。

さらに再開発の街区を「高度利用地区」とすることで、容積率を上乗せする。その結果、渋谷ホームズの容積率は現在の倍の1000%に膨らむ。地上14階建てのマンションが34階建てのタワーマンションに生まれ変わるのは、こうした措置があるためだ。

マンションに容積を配分する代わりに、再開発事業者が神南小学校を建て替え、マンション周辺に幅2メートルの歩道や結節広場を整備する。一体開発によって地域の防災力を向上させる狙いだ。

区はマンション単独の開発計画を一度却下しており、今回のスキームは小学校の建て替えのために考え出されたものといえる。ただ、このスキームでは、区が小学校のすぐ横にあるマンションの高層化を推進することになる。都市計画審議会では、ある委員から「ホップ、ステップで容積率がアップする、前例のない都市計画。非常にダイナミックなやり方だと思う」との意見が出た。

容積率の大幅な緩和は、マンションの建て替えにとって大きな追い風だ。開発を担うデベロッパーにとっては、建て替えによって生み出された新たな床(保留床)を売却することで、開発費用を賄えるうえに、さらに稼ぐことができる。

住民にとってのメリットも大きい。実は、渋谷ホームズでは10年も前から建て替えの議論が進んでいた。ただ、マンションの建て替えには区分所有者の5分の4以上の賛成が必要。住民の意見はなかなか1つにまとまらなかった。

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