《日本激震!私の提言》送電網は新規業者に開放を 原発は政府が管理すべき--八田達夫・大阪大学名誉教授
--福島第一原子力発電所の事故は米国のスリーマイル島事故を上回る深刻な状態が続いている。日本の原発政策をどう見るか。
日本が原子力発電を推進する唯一の理由は、「温暖化対策の切り札である」というものだ。だが、原発に投資するカネを、CO2を多量に排出している中国やインドでの削減に回せば、はるかに多くのCO2削減ができる。また、さまざまな燃料にかかる税金を炭素税に一本化すれば、日本はCO2削減にそうとうな努力をしていると、国際社会で主張できる。
しかし、電力会社は排出権取引にも炭素税導入にも反対してきた。原発を維持したいという、本末転倒な動機によるものだ。
「文民統制」なき原発政策 独占によるコスト無視
日本の原発政策の最大の問題は、文民統制ができていないことだ。たとえば軍の最高決定を軍人集団に任せれば、戦争を拡大する。文民統制はこれを防ぐためにある。しかし日本の原子力政策を策定する原子力委員会(内閣府に設置)のトップは、原子力工学の大物教授であり、同門出身者が電力各社、設備会社、経済産業省で原子力事業や政策を担う。
つまり、中立を装っているが、陸軍大学の教授に戦争の最終決定を委ねているようなものだ。原子力委員会は、形のうえでは原発反対派の意見も聞くが、単なるガス抜きにすぎない。これでは戦線拡大しないわけがない。これが誤りの根源だ。
安全確保や事故防止を担うはずの経済産業省の原子力安全・保安院は、失敗しても責任を負わない。民間の損害賠償保険制度を導入して、外部チェックを働かせ、個々の原発のリスクが保険料に反映される仕組みを作るべきだった。
独占企業である電力各社は、選挙の集票力によって政治と癒着し、天下り受け入れによって官僚と癒着している。残念なのは、有名な報道番組に多額の広告宣伝費を出すなどして、大手メディアを懐柔し、メディア側も原子力委員会の言うことを鵜呑みにしてきたことだ。その広告宣伝費は規制料金によって国民が負担している。規制業種に対して、既得権益を守るための無制限な広告宣伝を許していること自体、問題だ。