LOVOT開発者が説くテクノロジーと幸せの関係性 林要さん、着想は「起動しないPepper」から

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そしてこのプロジェクトは、林さんに一つの発見をもたらす。それは子どもの頃から意識し続けてきた、「テクノロジー」と「人の幸せ」の関係を解き明かすヒントになる重要な気付きだった。

「その気付きを得たのは、Pepperがうまく起動しない場面を見た時でした。エンジニアが再起動を繰り返しても、Pepperはなかなか立ち上がらない。

ところがその場にいた人たちは、失望するわけでも文句を言うわけでもなかった。それどころか『頑張れ!』と口々に声援を送り始めたのです。そして、ようやく立ち上がった瞬間には皆が大喜びをしていました。

それは僕にとって衝撃的な光景でした。ロボットの価値は『人のために何かをすること』だと考えていたのに、逆に人がロボットを応援し、助けることにうれしさを感じている。

『ロボットが人のために役立つことで、人は幸せになる』という従来のロボット観を覆し、『自分がロボットの役に立つことで、人は幸せになる』という場合もあるのだと分かったのは大きな驚きでした」

(写真:桑原美樹)

これは自動車開発の中で抱いた「便利でも快適でもない車やバイクがなぜ愛されるのか」といった問いにも通じる気付きだった。振動や音が大きければ運転に気を使うし、壊れやすいからこまめに整備する必要がある。

だがそうして手を掛けることで、人は「自分が役立っている」という実感を得て、喜びやうれしさを感じるのかもしれない。

「あれは今まで疑問に思っていたことのメカニズムを解明する一端が垣間見えた出来事でした。そして僕も『利便性や生産性の向上とは別のところに、ロボットが活躍できる領域があるのかもしれない』と思い始めたのです」

「自分を必要としてくれる存在」が人を元気にする

その後、林さんはソフトバンクを離れ、起業の道を選ぶ。理由は「自分の成長スピードに満足できなかったから」。

「孫さんのもとで学べば、その背中に近づけると思ったのですが、孫さんは部下の私たちを上回る速度でレベルアップしていくので、むしろ距離は開くばかり。

なぜかと考えた末に、孫さんが経営者として常にリスクをとっているのに対し、自分はその傘の下で守られているからだと結論づけ、傘の外へ出ようと決めました」

2015年にGROOVE Xを創業した林さんは、投資家などの意見も聞きながら、いくつかの事業アイデアを練り上げていった。その中から生まれたのがLOVOTのコンセプトだ。

起動しないPepperをきっかけに「利便性の向上には貢献しないが、人を幸せにするロボット」の可能性を模索する中、着目したのがペットの存在だった。

「ペットは基本的に人間に何かをしてくれるわけではありません。むしろ人間が世話をする側です。手間が掛かるし、時間は取られるし、お金も必要で、自由を奪われる。

そんな存在が、人間にとってかけがえのない存在となり、僕らを元気にしてくれる。その理由は『自分を必要としてくれる存在』だからです。

『手が掛かるほどかわいい』と言われるように、面倒をみているうちに人が本来持っている『他者を愛でる力』が引き出され、自然に愛着が湧く。愛情を注ぐ存在がいれば、人は心の安定や癒やしを得ることもできます。

ならばペットと同じように、人に世話をしてもらい、気兼ねなく愛でてもらえるロボットを作れたら、テクノロジーで人を幸せにできるのではないか。そう考えました」

(写真:桑原美樹)
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