LOVOT開発者が説くテクノロジーと幸せの関係性 林要さん、着想は「起動しないPepper」から

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「エンジニアとしては、機能や性能を高めて製品の利便性を追求します。もちろん便利で快適であることには価値があり、乗用車を購入したオーナーからも『この車は乗りやすい』『燃費が良くて助かる』などの評価をいただきました。

でも僕は、『この自動車のここが好き』といった、製品への愛着を示す声があまり聞かれないのが気になったんです。

考えてみると、自分が趣味で乗るバイクの場合は、最新テクノロジーを搭載した機種よりも、レトロな中古品の方が不思議と愛着が湧きます。

使われているテクノロジーが古いので、振動や音が大きく、スピードは出なくて燃費も悪く、すぐに壊れる。便利でも快適でもない製品なんて、生産性向上の観点からすればあり得ないはずです。

にもかかわらず、なぜ人はそんな製品に愛情を抱くのか。利便性を追求しても愛されないなら、愛されるテクノロジーの条件とは何なのか。そんな問いを抱えるようになりました」

「起動しないPepper」を応援する人々

新たな問いに向き合う一方で、林さんのキャリアに大きな転機が訪れる。39歳の時にソフトバンクへ転職し、感情認識パーソナルロボット『Pepper』の開発プロジェクトに参画することになったのだ。

そもそものきっかけは、孫 正義社長が次世代リーダー育成を目的に立ち上げた企業内学校「ソフトバンクアカデミア」に応募したこと。その外部第一期生に選ばれたことが、ソフトバンク入社につながった。

「応募した動機は、孫さんのもとで学びたかったから。今でこそ自動車とITは重なり合う領域が多い密接な業界ですが、当時はまだ両者の間に距離があり、IT業界は自動車業界よりも速いスピードで進化を続けていました。

そのIT業界をリードする孫さんから学びながら、新しい世界を見てみたいと考えたのです。ちょうど量産車の製品企画に携わって数年がたち、自動車開発の全体像もつかめてきたので、別のことにチャレンジしたいと思い始めたタイミングでもありました」

(写真:桑原美樹)

さまざまな業界・業種から集まったソフトバンクアカデミアの学生たちは、「まるで野武士みたいな人ばかりだった」と林さんは笑う。そこで目にしたのは、個性豊かで、組織に依存せずに生きる人たちの姿だった。

初めて出会う多様な人たちとの触れ合いに刺激を受けた林さんは、自分も外の世界へ出ることを決意。トヨタ自動車を退職してソフトバンクに入社し、まったく経験のないロボット開発に挑むことになった。

林さんがPepperの開発プロジェクトに参画したのは2012年のこと。

人間を模した姿を持ち、なおかつ人間とスムーズにコミュニケーションすることを目指したロボットは当時ほとんど前例がなく、開発はゼロからのスタートとなった。

だが林さんはすぐに「ロボット開発は自分に合っている」と感じたという。

「もともと自分は『やるべきことがある程度決まっている中で、より上を目指す』というタイプの仕事には、あまり適性がないと感じていました。それよりも『やるべきことが決まっていない中で、やるべきことをつくる』方がワクワクするし、頑張れる。

例えるなら、前者はすでに確立されたトレーニング法に沿って鍛錬を重ね、一位を目指すスポーツの世界。後者は何が正しいか分からないけれど、こちらだと思った方へ『エイヤ!』で飛び込んでいく冒険の世界。

まだ存在しない市場を切り開いていくPepperの開発は、まさに未知の大陸を進む冒険みたいなものでした。だからこそ自分には適性があると思えたのです」

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