「糖尿病で失明」知るとゾッとする合併症の正体 世界的眼科医が「薬物治療主体」に異論唱える訳

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それは目だけの問題ではありません。目の血管が破けたり、裂けたりするということは、ほかの、たとえば腎臓の血管にも同じことが起きている可能性があるわけです。

腎臓の糸球体という組織の血管は、網膜の細い血管によく似ています。破けて、腎不全を起こしてしまったら、生涯透析です。

【2024年1月5日13時20分追記】初出時の「腎臓組織の血管」についての表記を修正しました。

私が「糖質制限食」を勧める理由

残念ながら、日本の内科の糖尿病治療では透析患者が年々増え続けています。つまり、合併症が増えるということは、糖尿病の内科治療がうまくいっていないのです。現在の内科の食事指導で、総カロリーの4割も炭水化物をとらせて、高くなった血糖値は薬で下げるという治療法では、糖尿病性網膜症も腎症も悪化する患者が増えるだけなのです。

透析となれば、患者さんの生活は一変してしまうし、目だけでなく全身のさまざまな代謝異常につながり、寿命が縮んでしまう危険もある。私は糖質を控え、血糖値の変動を少なくする療法で、目や全身の組織をまもりながら糖尿病の悪化を防ぐ方法として「糖質制限食」を勧めています。

最初は難しいので、主食であるご飯や麺やパンをすべて食べるのをやめてもらいます。

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血糖コントロールを強化するなら、糖質制限食にプラスして、血糖値が高いときだけ血糖吸収を抑えるGLP-1の皮下注射や、薬でもインシュリン作用性ではないメトホルミン内服薬がいいと思います。

深作眼科には多くの重症糖尿病患者が来られるので、私は糖尿病の正しい内科的な治療についても、時間をかけて説明しています。糖質制限食で血糖の変動が少なくなり、血糖値が安定すれば、血糖値を急激に下げる薬から卒業できます。同時に負担の少ない手術で網膜症の治療を行い、視力回復をめざすのです。

ただし、いまだに糖尿病の標準的な治療の主体は薬物治療で、糖質制限食など、生活習慣の改善ではありません。

糖尿病は生活習慣病の1つなのに、なぜ、そもそもの原因である生活習慣を正す治療や啓蒙が主体でなく、生活習慣の乱れの結果として起きている血糖値のコントロール不良だけを治療対象とするのか。合理的ではないし、ある意味本末転倒なのです。

深作 秀春 眼科専門医、深作眼科院長

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ふかさく ひではる / Hideharu Fukasaku

神奈川県横浜市生まれ。米・独で研鑽を積み、白内障や緑内障などの近代的手術法を次々と開発。米国眼科学会理事を務め、眼科殿堂選考委員、学術賞審査委員などを歴任。それまで不可能とされた眼病の新しい治療法の開発や多くの革新的眼科手術法の開発により、国際眼科学会最高賞を20回受賞。2017年には、世界最高の眼科外科医に贈られる「クリチンガー・アワード」の欧米以外の医師では初めての受賞者となった。現在は世界最高のスーパードクターとして25万件の手術実績を有し、日本中だけでなく世界中から患者が治療を求めて来院する。他方でプロ芸術家でもあり多摩美術大学大学院を修了し日本美術家連合会員という画家としての一面も。

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