孫泰蔵「未来への準備をやめよ」と断言する理由 AI時代こそ大切になる「コンサマトリーな時間」

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佐宗:腹落ちしました。あの本を読んだときに味わえるグルーブ感はそれだったんですね。

:伝わりましたか? コロナ禍ではステイホームで人とはほぼリアルに会えなかったですが、本を通じてコメニウスやルソーや荘子と脳内対話をしていたので、僕の感覚としては「出会いまくっていた」期間でした。

佐宗:泰蔵さんがそういう探究の楽しさに目覚めたきっかけを知りたくなりました。

深く沈むからこそ高くジャンプできる

:僕の場合はたまたま大学生のときに、スタンフォードの大学院生だったジェリー・ヤンという男に出会ったことがきっかけでしたね。彼は後にヤフーの創業者として有名になる人物です。一方で当時の僕はというと、大学を出た後に進みたいと思える道が見つからず闇の中にいたんです。

佐宗:泰蔵さんにもそんな時期があったんですね。ちょっとそれをお伺いしてホッとします。

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:超氷河期といわれた時代の就職難も相まって、一つも内定が取れず、もう留年するかと思っていたときに彼に出会ったんです。聞けば、「サーチエンジン」とやらを研究していて、試しに作ってみたプロトタイプが広がり始めたのだと。当時は「サーチエンジン」という概念さえなかったので説明が難しかったそうですが、彼は「未来のニュートンの前でリンゴを落とすような装置だ」と説明していたんです。つまり、ニュートンが目の前でリンゴが落ちる現象を見たから万有引力の法則を閃いたように、膨大な事象の中から出会うべき事象だけを引っ張り出すことが、人類に無数のチャンスを与えるのだと。

面白いなと思って「日本語版は作らないの?」と聞いたら、「作りたいから、やってくれない?」と丸投げされたのが、僕にとっての始まり。でも英語版のヤフーのアーキテクチャーはそのまま転用できる状態ではなくて、ほぼゼロから作ることになったんですけどね。簡単ではなかったですが、「当社を志望する動機は?」という質問に対する正解を考えるよりもはるかに面白かったし、自分のやりたいこと、できることが広がっていく感覚があった。この体験が原点になっていますね。

佐宗:すごいストーリーですね。そして、その出会いが巡ってくるまでの泰蔵さんはモヤモヤを抱える暗い時期を過ごしていたというところが、多くの人にとって救いになりそうです。一度深く沈んだからこそ、高くジャンプできたのかもしれませんね。

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