「マッチ作りの少女」の最期は涙なくして語れない 19世紀の欧州に実在した「奇妙な職業」たち
・信仰心が生み出した「罪食い人」という職業
イングランド国教会の信者たちは日頃から「罪」について大変心配し、罪から解放されなければ天国に行けないと思っていました。そこで家族などが亡くなった際に「この人は生前に結構悪いことをしているから、このままでは天国に行けない」と考えると、故人の生前の罪を代わりに背負ってくれる、貧しい身なりをした縁もゆかりもない見知らぬ男、「罪食い人」に連絡するのです。
葬儀の日、遺族に呼び出された罪食い人は亡骸の上に置かれたパンを食べたりビールやワインを飲んだりします。そうすることで、故人の罪を受け継ぐことができると考えられていました。報酬はわずか数百円程度。生前の罪を数百円で相殺することができたのですから遺族にとってはありがたいでしょうが、罪食い人からすればなんともコスパの悪い仕事です。当時は貧困層やのけ者扱いされている人々が、この仕事を請け負っていました。
しかもイングランド国教会自体は罪食い人の存在を認めていませんでした。それもあって人々は自分を犠牲にして他人の罪を被ってくれるというありがたい存在であるにもかかわらず、罪食い人を忌み嫌いました。街中で見かければあからさまに避けられたことから、罪食い人は街から離れた場所で暮らしていたそう。都合のいいときだけ呼び出され、それ以外のときは蔑まれるという、なんとも理不尽な職業です。
ハイリスクハイリターンの職業も
・医療の勘違いが生んだ「ヒルコレクター」
何千年も前から、瀉血(しゃけつ)という治療法はさまざまな病気を治すと信じられていました。悪い血を流せばペストからニキビまで症状が緩和されると言われ、人々は首や腕の血管を切開して血を流していました。
ときにはこれが過剰となり失血死につながることもあったのですが、出血量をコントロールしやすく便利だという理由で脚光を浴びたのがヒルです。19世紀のヨーロッパではヒルによる瀉血が一大ブームとなり、「ヒル治療は万能で頭痛、気管支炎、チフス、赤痢まで全部治ってしまう」と謳われ、需要に応えるべく「ヒルコレクター」なる職業も生まれました。
ヒルコレクターの多くは貧しく、老人も含まれていました。彼らはヒルが生息していそうな汚れた池に入り、自分の皮膚に付着したヒルを収集しました。ヒルコレクターたちはヒルによってひどい失血をすることもありましたし、つねに不潔な水の中にいたためヒルに噛まれた傷口から感染症にかかることもあり、リスクの大きい職業でした。
しかし乱獲されたことで絶滅寸前となったヒルはなんと養殖されるようになり、ヒルコレクターの出番は失われていきました。さらに19世紀末に医学会が瀉血の効果のなさを認識するようになると、薬屋で美しい芸術品のような陶器に入れられていたヒルも姿を消したのでした。ヒルコレクターたちが失業後、どんな仕事についたのかも気になるところです。
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