結局、47都道府県のうち38都道府県から、2万1939法人の医療法人の過去3年度分の事業報告書等が、「機動的調査」で用いることができた。
この法人数は、厚生労働省が実施し、診療報酬改定の際の基礎資料ともなっている「医療経済実態調査」の有効回答施設数と比べると、桁違いに多いものである。2022年度の「医療経済実態調査」での有効回答施設数は、病院が1218施設、診療所が1706施設である。
どちらの調査結果が信頼できるかは、推して知るべしである。
厚生労働省や医療界からすれば、虚を突かれたことだろう。まさか、財務省が各地の財務局を動員して、利用可能なほぼすべての医療法人の事業報告書等を入手して分析することなど、かつてないことであり、そこまで人海戦術で実施するとは想像できなかっただろう。もともと、各地の財務局は、予算に関連して調査する業務も担っている。
コロナ禍が対象なのは「3年分しか閲覧できないから」
分析に用いた医療法人のうち、認可病床数が0床である医療法人、つまり無床診療所である1万8207法人について、2022年度の経常利益率を集計したところ、平均で8.8%だった。これが、「機動的調査」で明らかとなった。
同じ2022年度の中小企業の経常利益率は、全産業平均で3.4%だったことと比べると、診療所は約5.5%も高い。また、同調査では、認可病床数が20~199床の中小病院の経常利益率は4.3%であることも示され、診療所と病院との間でも大きな違いがあることが明らかとなった。
「機動的調査」の結果が、財政制度等審議会の会合で初めて示されたのは、11月1日だった(財務省資料)。その翌日の2日に、日本医師会は、この調査結果に対してすぐさま反論した。「機動的調査」は、診療所が儲かっているという印象を与える恣意的なものだと批判した。
また、「機動的調査」は2020~2022年度というコロナ禍の3年間しか分析しておらず、それで結論付けることにも疑義を呈している。
しかし、前述したが、そもそも過去3年間しか事業報告書等を閲覧できなくしているのは、医療法施行規則であって、調査で恣意的に3年間だけ選んだわけではない。
医療界の反応をみると、「機動的調査」で、診療所はもうかったが病院はそれほどではないといわんばかりだったためか、診療所(開業医)と病院(勤務医)を分断するかのように調査結果を示していると受け止められたのかもしれない。
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