IHIの過去最大赤字を招いた「割に合わない」契約 航空エンジンに問題で「1兆円損失」を応分負担

拡大
縮小

なぜ近年、日本の重工各社の間で航空エンジン事業での損失が相次いでいるのか。

航空エンジンは20年以上をかけて投資コストを回収するプロジェクトだ。エンジン本体の開発投資や値引き販売がかさむため、販売後10年間は赤字。増産期に入って生産コスト低減が進み、スペアパーツの需要が伸びる11〜15年目でようやく単年黒字化が見える。そこからさらに10年で累計損益が黒字化する。

巨額の開発投資が必要な一方、資金回収までの期間が長い。だからこそ、リスクを分散するRRSP方式の契約が結ばれる。

PW1100G-JMエンジン
PW1100G-JMエンジンは先進ギヤシステムを適用した GTF (ギヤードターボファン ) 形態を採用し、高い推進効率を実現。燃費、排ガス、騒音が改善されている(写真:P&W)

航空エンジン市場は、アメリカのゼネラル・エレクトリック(GE)とP&W、ロールス・ロイスの欧米3社が事実上独占している。ビッグ3は中核技術を手放さない一方、それ以外の部位ではグローバル水平分業を積極的に推し進め、日本の重工各社の高い技術力を取り込んできた。

実態は対等なパートナーにあらず

PW1100G-JMエンジンでは、重工3社で設立したJAECが「プログラムパートナー」として2割以上の高シェアでプロジェクトに参画、P&Wと対等な立場で開発・販売を進めてきた。

だが、前出の重工幹部は「パートナーと言うと一見対等な関係のように聞こえるが、実態はまだまだビッグ3の下請けやサプライヤーに近い」と話す。

「参入障壁が高い事業で、プロジェクト終盤には多くのリターンを得られるものの、近年はLCC(格安航空会社)の台頭や脱炭素への対応もあり、新型エンジンは安くて燃費がよいものが求められる。とくに(ビッグ3が手がける)高圧部分での開発リスクは相対的に高く、RRSP方式で損失を押し付けられるケースが増えている」(同)

川崎重工はコロナ禍での収益悪化を機に、非航空ビジネスの収益力強化へ舵を切った。2021年に分社化したモーターサイクル事業(バイクやオフロード4輪車など)が短期間で稼ぎ柱に成長。今回のエンジン損失で航空部門は深い痛手を負ったものの、2023年度通期での黒字は維持する。

一方、参画シェアが高く、航空エンジンやスペアパーツが稼ぎ頭のIHIの経営への打撃は大きい。2023年度上半期(4~9月)は1375億円の最終赤字に沈み、自己資本比率は2022年度末の22%から14%に低下。企業財務の健全性を示すデットエクイティレシオ(負債資本倍率)は同1.14倍から1.98倍に急悪化した。焦眉の急は財務の改善だ。

次ページ不動産売却で損失を補填するが…
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT