IHIの過去最大赤字を招いた「割に合わない」契約 航空エンジンに問題で「1兆円損失」を応分負担

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その影響は甚大だ。約3000台のエンジンが検査対象となり、スペアエンジンが不足。エンジンの取り下ろしから取り付けまで250~300日かかる見込みで、2024年上半期には、運行復帰できないエアバス製の機体が600~650機に上るとみられている。

ANAの航空機
全日本空輸(ANA)は、PW1100G-JMエンジンを搭載する「A320neo」「A321neo」を計33機保有。羽田~伊丹・福岡路線などで2024年1月~3月に1日当たり約30便の減便を行う(写真:エアバス)

RTXが9月に公表した追加検査プログラムでは、世界各地でのエアライン会社への補償や追加整備費用により、全体の損失額が最大70億ドル(約1兆円)に膨らむことが明らかにされた。

同エンジン開発では、「RRSP(リスク&レベニューシェアリングパートナー)」方式が採用されている。これは各社の参画シェアに応じて開発・量産・販売に関する収入や費用が分配される契約で、今回の1兆円の損失も参画シェアに応じて各企業が負担する。

冒頭のIHIは、日本勢の中で最も大きい約15%のシェアで参画している。同社は今期、エンジン関連で約1600億円の損失を一括計上する。

次いで5.8%のシェアで参画する川崎重工業も580億円の損失を計上し、2024年3月期の営業利益計画を従来の780億円から400億円に半減させた。三菱重工業(シェア2.3%)は200億円弱の損失を計上したものの、影響は相対的に軽微で、通期の業績計画は据え置いた。

落ち度はなくても損失は負担

今回のエンジン損失をめぐって、ある重工の経営幹部は「(欧米のエンジンメーカーに)負担ばかり押し付けられるのは割に合わない。もっとエンジンプロジェクト全体の意思決定に入らないといけないが、それも難しい」と本音を打ち明ける。

エンジントラブルの最大の原因は、P&Wが手がける高圧タービン・コンプレッサーのディスク(回転盤)にあった。RTXのグループ企業が製造した粉末冶金(金属粉末を成型し高温で焼結することで精密部品を作る技術)素材に異物が混入していたためで、日本の重工各社が提供する低圧圧縮機モジュールやファン、燃焼器に問題は生じていない。

日本の重工企業が国際共同開発のエンジン事業で巨額損失を出すのはこれが初めてではない。ボーイング787向けにロールス・ロイス(イギリスが本拠)が開発を主導したTrent1000エンジンでも、内製していた中圧タービンブレードに不具合が発生し、参画していた川崎重工が2018~2019年度に総額約200億円の損失を計上している。

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