IHIの過去最大赤字を招いた「割に合わない」契約 航空エンジンに問題で「1兆円損失」を応分負担
「“豊洲の大家さん”じゃないとあの経営判断はできない。びっくりした」
別の重工幹部がそう語るのは、IHIの配当政策だ。川崎重工は年間配当を80円から40円に減配する一方、赤字になったIHIは「一過性の損失である」として、年間100円配の期初計画を維持した。
財務が悪化する中でも強気の安定配当を維持できるのは、IHIに不動産があるからだ。
本社を置く豊洲では、造船工場跡地をオフィスや商業施設として開発。豊洲地区の投資用不動産で約2300億円、それ以外で約1100億円の計約3400億円を所有する(時価ベース)。帳簿価格は低く、約2000億円の含み益があり、過去の業績悪化時も不動産売却でしのいできた。

コスト削減や一部投資の見直しを最優先に行うほか、今回も「固定資産(不動産)の売却も視野に入れている」(IHIの福本保明・取締役財務部長)。しかし、本業で損失を出すたびに不動産売却で補填し続けるのは、健全な経営とは言いがたいだろう。
福本氏は、「エンジンプロジェクトに15%で参画する会社として、パートナー間での連携が十分だったのか、いまの資本は十分なのか、しっかり考えていかないといけない」と語る。
対等なパートナー関係を築けるか
今年2月、三菱重工がスペースジェット(旧MRJ)の開発中止を発表したことで日の丸ジェット実現の可能性は潰えた。日本企業の航空事業部門での成長戦略は見えづらくなっている。
航空機産業のビジネスに詳しい立命館大学経営学部の山崎文徳教授は、「欧米企業が市場を独占する構図の中で、 日本企業にとって航空機やエンジンの完成品プログラムに参画して欧米航空局の認証取得に取り組むことや、コア技術に入り込んで対等な交渉ができるパートナー関係を築けるかが重要だ」と指摘する。
コロナ禍がようやく落ち着き、航空機産業は暗いトンネルを抜けた。航空エンジンは年3%の成長を続ける有望市場であることは間違いない。
IHIの井手社長は「今回の事案は設計ミスではなく、技術的チャレンジの中で発現したもの。リスクをどう分散するか考えていく必要はあるが、航空エンジンの成長性にはなんら変わりはない」と強調する。
日本企業が航空機ビジネスの操縦桿を握る日は来るのか。重工各社の再起が待たれる。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら