IHIの過去最大赤字を招いた「割に合わない」契約 航空エンジンに問題で「1兆円損失」を応分負担

拡大
縮小

「“豊洲の大家さん”じゃないとあの経営判断はできない。びっくりした」

別の重工幹部がそう語るのは、IHIの配当政策だ。川崎重工は年間配当を80円から40円に減配する一方、赤字になったIHIは「一過性の損失である」として、年間100円配の期初計画を維持した。

財務が悪化する中でも強気の安定配当を維持できるのは、IHIに不動産があるからだ。

本社を置く豊洲では、造船工場跡地をオフィスや商業施設として開発。豊洲地区の投資用不動産で約2300億円、それ以外で約1100億円の計約3400億円を所有する(時価ベース)。帳簿価格は低く、約2000億円の含み益があり、過去の業績悪化時も不動産売却でしのいできた。

豊洲4⁻2街区再開発計画の工事風景
IHIの本社近くの豊洲2丁目では、三菱地所と共同で最後の大規模オフィス開発が進む。2025年6月に竣工予定(記者撮影)

コスト削減や一部投資の見直しを最優先に行うほか、今回も「固定資産(不動産)の売却も視野に入れている」(IHIの福本保明・取締役財務部長)。しかし、本業で損失を出すたびに不動産売却で補填し続けるのは、健全な経営とは言いがたいだろう。

福本氏は、「エンジンプロジェクトに15%で参画する会社として、パートナー間での連携が十分だったのか、いまの資本は十分なのか、しっかり考えていかないといけない」と語る。

対等なパートナー関係を築けるか

今年2月、三菱重工がスペースジェット(旧MRJ)の開発中止を発表したことで日の丸ジェット実現の可能性は潰えた。日本企業の航空事業部門での成長戦略は見えづらくなっている。

航空機産業のビジネスに詳しい立命館大学経営学部の山崎文徳教授は、「欧米企業が市場を独占する構図の中で、 日本企業にとって航空機やエンジンの完成品プログラムに参画して欧米航空局の認証取得に取り組むことや、コア技術に入り込んで対等な交渉ができるパートナー関係を築けるかが重要だ」と指摘する。

コロナ禍がようやく落ち着き、航空機産業は暗いトンネルを抜けた。航空エンジンは年3%の成長を続ける有望市場であることは間違いない。

IHIの井手社長は「今回の事案は設計ミスではなく、技術的チャレンジの中で発現したもの。リスクをどう分散するか考えていく必要はあるが、航空エンジンの成長性にはなんら変わりはない」と強調する。

日本企業が航空機ビジネスの操縦桿を握る日は来るのか。重工各社の再起が待たれる。

秦 卓弥 東洋経済 記者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

はた たくや / Takuya Hata

流通、石油、総合商社などの産業担当記者を経て、2016年から『週刊東洋経済』編集部。「ザ・商社 次の一手」、「中国VS.日本 50番勝負」などの大型特集を手掛ける。19年から『会社四季報 プロ500』副編集長。21年4月から再び『週刊東洋経済』編集部。アジア、マーケット、エネルギーに関心。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT