「靴磨きの師匠」とマーケティングの神髄《それゆけ!カナモリさん》

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■「顧客志向」の靴磨きと「マーケティング2.0」

 師匠と弟子が磨いた靴は、比喩表現ではなく空が映るまでに輝く。しかし、空が映るまでに磨き込まれた靴の仕上げも、それで終わりではない。

初めての客には「クリームが一度では奥まで入り込まないから、また1カ月もしたら来て」と客に再来を促す。

「靴磨きの仕事は“一期一会”じゃダメなの。お客の靴を見たら、その靴の状態を見極めて、どれくらいの回数で、どこまで仕上げられるか考えて磨いていかなきゃいけないんだ」と師匠はいう。

「ニーズとウォンツ」の関係を表す言葉は、セオドア・レビットが「顧客はドリルが欲しいのではない。穴を開けたいのだ」と表したとされている。そして、靴磨きにおいては、「顧客は靴を磨いて欲しいのではない。ピカピカの靴をはいていたいのである」だ。

そのために、師匠は「一期一会ではダメ」という。客の靴が今までどのような人が、どのような手入れをしてきていて、現在どのような状態にあるかを見極め磨き上げる。長期間にわたって客の靴をどう仕上げるかを考え、最適な状態を保てるようにしている。それは「顧客志向」そのものだ。コトラーのいう「マーケティング2.0」の状態だ。

顧客と共に「靴のいい状態」を創ることと「マーケティング3.0」

弟子が育って、クリームが徐々に染み出し「削り磨き」だけで対応できるようにする“しくみ”はもう不要かというとそんなことはない。

磨きながら客には日常の靴の手入れ方法を教える。染みこんだクリームが後から染み出すため、日常手入れは固く絞った濡れタオルで表面の汚れを拭くだけにするのがベストだと。そして、きちんと水拭きメンテナンスをしていない客には、「きちんと手入れをしなきゃダメだよ」と諭す。

 

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