弱る自治体をぶんどる「過疎ビジネス」の実態 企業版ふるさと納税のカネが寄付企業に還流

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国見町は2022年の9月議会で救急車事業の予算を計上し、担当課は同時並行で事業の委託先の選定に使う仕様書の作成を進めた。その際、事務局のワンテーブルは町の仕様書の中身の作成に関与し、ベルリングの既存車両に合わせた指定を多数盛り込んだ。

例えば、仕様書は車内幅を1740ミリ以上とし、車両の床材に繊維強化プラスチック(FRP)を使うことなどを求めている。これらはベルリング製車両の特徴と一致する。業界大手のトヨタや日産は車内幅が1730ミリで、仕様書の指定より1センチ狭い。車両の床材にFRPを使う業者はベルリングだけだ。

12台の車両のうち2台を中古車とする、という不可解な指定も盛り込まれ、納入期限は委託先の決定から4カ月後の2023年3月とされた。

内部文書。入札で他社を「排除したい」とする文言がある(写真/河北新報)

『河北新報』が入手した仕様書作成に関する内部文書からは、国見町が他社の応募を意図的に締め出そうとした形跡も確認できた。文書には町からワンテーブルへの質問事項や要望が一覧になって列挙され、車両の構造に関する項目では「(他社を)室内寸法や他機能で排除したい」と町の担当職員からワンテーブルに提案する文言まであった。

行政機関が、特定の企業が受注できるよう入札プロセスを歪めた疑いがある。

「不適切で乱暴で無責任」と痛烈批判

2023年の9月議会に町監査委員が提出した意見書も、仕様書の内容や作成経緯は「公平性に欠ける」と強調した。監査では町が事業計画書を作らなかったことや、救急車のリース需要が未調査だったことも判明し、意見書は事業の進め方を「不適切で乱暴で無責任」と痛烈に批判した。

国見町は事業の実施理由について「産業集積が見込めた」「町の知名度が上がると考えた」などと説明する。「寄付金事業だから町の懐は痛まない」とでも思ったのだろうか。そもそも町に入った寄付金は公金であり、町民の財産だ。違う形で町が主体的に寄付金を使えば、いくらでも住民サービスの向上が図れただろう。

東洋経済はDMMに対し「寄付をしたのは事実か。匿名にしたのはなぜか」「寄付をする前、国見町の救急車事業を子会社ベルリングが受注する見通しであることを事前に把握していたのか」等々を質問した。

DMMは寄付を「事実」と認め、匿名としたのは「本来納税すべき自治体(東京都港区)とは別の自治体に納税することが(港区にとっては減収となるため)一部批判されていたため、自治体への向き合い方を考慮し非公開とした。他意はない」と釈明した。寄付はワンテーブルとベルリングが提携することを把握した上で行ったとしつつ、寄付自体は「地域貢献の機会になると考えて実施したのであって、税控除は目的ではない」と回答した。

寄付に至った経緯は「ワンテーブルから、国見町が企業版ふるさと納税による高規格救急車の大量納品を希望しているとの打診を受けた」。一方で「DMMグループから(国見町に対して)高規格救急車の研究への(寄付金の)活用を要望した事実は一切ない」とし、仕様書の作成などプロポーザルの内容にも「一切関わっていない」と強調した。

東洋経済はワンテーブルに対しても「救急車事業を受注したベルリングの親会社が寄付をしたDMMであることを知っていたか」「仕様書の作成にワンテーブルも関与したか」「前社長の『行政機能をぶんどる』とはどういう意味か」等々を質問した。

富田智之現社長は「当社とベルリングとは以前から接点があり、親会社がDMMであることも知っていた。だが、DMMが福島県国見町に(救急車事業に関する)寄付をしていたことは知らなかった」「DMMと面談したことはない」などと回答した。しかしDMMが「ワンテーブルから寄付についての打診を受けた」と説明している旨を伝えて再質問すると富田氏は「島田前社長がDMMに(国見町への)寄付の話をしていた」と回答を一部修正した。

仕様書作成への関与については「当時、自分は社長ではなく、別の会社にいたため詳細は把握していない」という。島田前社長の「(自治体の)行政機能をぶんどる」との発言については「過ぎた表現であったことを深く反省する」と謝罪したが、事業立案の経緯に関しては「事業主体は国見町であり、説明する立場にない」「事業の一連の取り組みについて一切の法令違反行為はない」と述べるにとどめた。

11月27日に開かれた百条委では、事業に関わった地元消防組合の幹部ら計3人が参考人招致された。事業者選定の審査を頼まれた消防組合幹部は、仕様書が委託先の決定から4カ月後に12台の納車を求めたのは「不可能に近い」と証言した。医療資器材を搭載しないのに平均すると1台3600万円になる車両価格についても「高額すぎる」と違和感を語った。

町の仕様書は公正な入札を妨げた疑いがあり、発注者の関与を取り締まる官製談合防止法などに触れる可能性がある。疑惑の追及は今後の百条委の調査で進むが、それとは別に今回の問題が浮き彫りにした「地方の危機」にも目を向ける必要がある。

過疎化に伴う財政難や人材流出に苦しむのは国見町だけではない。民間企業やコンサル企業が自治体に食い込む事例は各地で散見される。民間の知恵を借りること自体、間違ってはいない。しかし本当に住民サービスの向上が主眼となっているか、官民連携という大義を隠れみのにした「過疎ビジネス」になっていないか。注意が必要だ。

全国の自治体にとって、国見町のケースは人ごとではないはずだ。

横山勲 『河北新報』記者

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よこやま つとむ

1988年生まれ。2013年、河北新報社入社。本社報道部、盛岡総局などを経て、2021年から福島総局記者。

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