開店前に行列も「昭和の純喫茶」の知られざる魅力 「若者やインバウンド客」から人気を集める理由

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「邪宗門」系列の店の特徴は、深い飴色の木材を使った内装と、店内に飾られる時計や火縄銃などの個性的なアンティークだ。「物豆奇」も多数飾られたアンティーク時計やランプに、その特徴を踏襲しつつ、西洋風の凝ったステンドグラスやアート作品のような真鍮の建具には、創業者オリジナルのこだわりが見える。

現在これだけのものを作ろうとすれば、そのコストも一通りではないだろうことが想像できる店構えだ。創業当時の円熟した喫茶店文化や、店主の意気込みが作り出した、奇跡の店だといえるだろう。

窓からやわらかな日差しが差し込む店内には、ゆったりとしたジャズが流れる(撮影:梅谷秀司)

「この『物豆奇』はもちろん、他にも沢山の素敵なお店が日本には残っています。純喫茶はコーヒー1杯の入場料で体感できる、『活ける昭和の博物館』といえるのではないでしょうか。当時から続く魅力的な空間を、飲食代だけで気軽に楽しめる幸せを、感じてほしいですね」

今となってはぜいたくな場に身を置いているからこそ、コーヒーや、食事、スイーツの味わいが際立つ。近年SNSに多くの純喫茶がシェアされるのも、空間が醸し出すマジックを人々が感じているからに他ならない。

純喫茶の中心には、人間がいる

着々と愛好家を増やしている純喫茶だが、問題もある。それは創業者のマスターたちが高齢化していることだ。2012年に初版を発売した『純喫茶コレクション』は現在改訂版(河出書房新社)が発売されているが、初版からの約10年の間にも、多くの店が閉店してしまったという。

「物豆奇」の店内(撮影:梅谷秀司)

純喫茶をこよなく愛する難波さんは、そのことについてどう思っているのだろうか。

「1960年代や1970年代にお店を開いたマスターやマダムたちが、70歳や80歳になって、引退を考えられる時期に差し掛かっています。私としては、そういった転換期にあるからこそ、純喫茶の素敵な空間を記録にとどめたいのです。

今はまだ残っているお店も多いので、本物の純喫茶の空間に触れてもらいたいですね。ですから私がプロデュースに携わるイベントや、アイテムも、実際のお店に関連するものに限定しています。『イベントやグッズをきっかけに、実際のお店を訪れてほしい』という想いが原動力です」

難波さんが伝えたい純喫茶の文化とは、長い年月を経て磨き上げられた店のインテリアであり、店主や常連がつくる現場の空気感そのものなのだ。

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