開店前に行列も「昭和の純喫茶」の知られざる魅力 「若者やインバウンド客」から人気を集める理由

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「物豆奇」の外観。まるでジブリ映画に出てきそうな店構えが、西荻の商店街のなかでもひときわ目立つ(撮影:梅谷秀司)

純喫茶の魅力にはさまざまなものがある。丁寧にドリップするコーヒーや、ナポリタン、ピザトーストなどの軽食、プリンアラモードやパフェに代表される華やかなスイーツ……。難波さんは、なかでもそのインテリアの独自性を指摘する。

現代には再現できない、コスパ度外視の空間設計

「例えば今日取材を受けているこのお店『物豆奇(ものずき)』は1975年創業ですが、今の時代に、これだけの内装を作りだすことはおそらく難しいのではないでしょうか。 

純喫茶が流行した頃に生まれたお店たちは、『人生をかけて自分の城をつくる』という情熱を感じます。内装も採算度外視で、納得いくものを目指しているところが多く、自らの夢が詰まった空間を作る決意とこだわりに、心奪われます」

確かに創業者の好みを詰め込んだ個性あふれる内装は、マーケティングやコストパフォーマンスを気にするチェーン店では作り出せないものだ。喫茶店は昭和の時代から庶民的な場だが、今では希少な建築資材が使われていたり、当時の職人の技が内装に反映されていたりもする。

「物豆奇」の壁と天井を埋め尽くすアンティーク。柱にあしらわれたライオンと花のモチーフなど、細部にまで趣向が凝らされている(撮影:梅谷秀司)

例えば、「物豆奇」は、漆喰の壁に有機的な曲線を描く木彫りの看板が異彩を放つ外観だ。中に入ればそこかしこにアンティークの時計がかけられ、まるで物語の世界に迷い込んだような雰囲気。壁を彩るイラストは、常連のアーティストによる作品で、この店が長く多くの人に愛されていることを物語っている。

この店は昭和の有名店である国立の「邪宗門」(2008年12月21日に門主他界で閉店)にインスパイアされた初代オーナーが、内装を作り上げたもの。その2年後に今の店主の山田広政さんが引き継いだ。「邪宗門」は名和孝年さんというマジシャンが戦後まもなく東京の吉祥寺(後に国立に移転)に開いた純喫茶が元祖の、伝説の喫茶店だ。

「邪宗門」店主である名和さんの人柄や、彼のこだわりの詰まった独特の内装、コーヒーの味わいに心酔した人が、それぞれの解釈で「邪宗門」を受け継ぐ店を開いた。同じ「邪宗門」店名を冠した店は現在全国に4店あるが、「物豆奇」のように名前を受け継がずとも、そのスタイルにインスパイアされた店もある。

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