フィリピンとの「準同盟」は日本の国益にかなうか アメリカに押され前のめりの日本、リスクへの覚悟は

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マルコス大統領も2023年1月に訪中し、習近平国家主席と会談。253億ドルの経済協力の約束を取り付けた。これに対して岸田首相は翌2月、2024年3月までに6000億円の官民支援を実施すると約束した。今回大型経済協力の手土産がなかったのは、すでに先渡しているからでもある。

ドゥテルテ氏は任期後半になって親中国の姿勢をかなり修正したためか、中国の約束は10分の1も果たされなかったとされる。他方、日本は公約の5年を待たずに1兆円を実現し、最大の援助国としてフィリピン側の強い信頼を得た。

陰の推進者・アメリカ

フィリピンにとって日本との準同盟化は、防衛装備に加え経済的にも大きな利益がある一方で、貿易や経済的結びつきが強い中国の反感を買うリスクもある。

しかしマルコス政権は発足以来、親米路線にはっきりと舵を切ったことで中国の猛反発を受け、南シナ海ですでにさんざん嫌がらせを受けている。日本との関係を深めたところで、中国の姿勢に大きな変化はないと踏んでいるはずだ。

それでは日本の国益にとってはどうだろう。中国の圧力にさらされている国同士の連帯感や多国籍艦船による哨戒の実施効果といった利点は考えられるが、当事者ではない南シナ海の紛争に巻き込まれるおそれはないのか。カギを握るのは準同盟の陰の推進者であるアメリカだ。

マルコス大統領は日比首脳会談で、アメリカとの3カ国による協力について言及した。岸田首相も11月4日のフィリピン国会での演説で「南シナ海の現場においても3カ国の協力が進んでいる。

先月行われた米比合同訓練に自衛隊が参加したほか、6月には日米比の海上保安機関による合同訓練が初めて行われた。こうした取り組みを通じて力ではなく法とルールが支配する海洋秩序を守り抜いていこう」と呼びかけた。

南シナ海で中比の艦船衝突が起きた後、アメリカのバイデン大統領は記者会見で「EEZ内で補給任務に従事するフィリピン船に対し、中国船が危険で不法な行動を取った」と断じたうえで、「はっきり言っておく。フィリピン防衛へのコミットメントは揺るがない。航空機、船舶、軍隊へのいかなる攻撃も米比相互防衛条約を発動させることになる」と中国に警告した。

中国を「唯一の競争相手」と見定めるアメリカだが、足元ではロシアによるウクライナ侵略、ハマスの襲撃、イスラエルの反撃で激化する中東情勢と3正面の対応を迫られている。

そのような中で日本とフィリピンの準同盟化は、アメリカの安保政策を下支えする基盤となり得るとみている。日韓の関係改善を促したのと同様、日比間でも仲人役を務めることで多重の中国包囲網を築く思惑だ。

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