フィリピンとの「準同盟」は日本の国益にかなうか アメリカに押され前のめりの日本、リスクへの覚悟は

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安倍晋三首相はこれに応えて2013年7月、巡視船(44メートル級)10隻の供与を表明し、187億円の円借款で実施された。2018年までに引き渡されたうちの1隻が今回、中国船に衝突された船艇だ。日本政府は2016年、165億円のODA資金でさらに97メートル級の巡視船2隻を建造して供与することを決め、納入した。

PCGによると、現在保有する艦船は日本からの12隻を含めて20隻ほど。日本供与の97メートル級2隻とフランス提供の1隻を除けば小型船ばかりで修理中も多い。

海上保安庁がPCGの乗務員の訓練や補修の手助けもしていることもあり、稼働している艦船のほとんどが日本供与のものだという。日本はほかに13隻の15メートル級高速ゴムボートも供与している。PCGのロジは日本がほとんど丸抱えしている状態だ。

岸田首相が去った直後の5日、フィリピン運輸省は、日本政府から97メートル級巡視船5隻の追加供与を受けることが決まったと発表した。日本側の発表前に先走るところはフィリピンらしいのだが、南シナ海海上警備の日本依存がさらに進むのは間違いない。

機関砲や防弾ガラスを装備する巡視船の供与については、かつては輸出分類で「武器」に相当するとされ、専守防衛や武器輸出3原則に抵触するとの疑念があったが、第1次安倍政権下の2007年、沿岸警備は警察活動にあたり軍事とは違うという理屈で、インドネシアに3隻を初めて供与した。

第2次安倍政権はフィリピンへ12隻と実績を重ね、ベトナムにも中古船を送っている。いずれも南シナ海で中国と紛争を抱える国々だ。

日本の大盤振る舞い次々と

ODAに関しては安倍政権が2015年2月、新たな開発協力大綱を閣議決定した。これにより、災害救助など非軍事目的であれば他国軍への支援が可能になった。さらに2023年になって同志国へのOSAという別枠の援助形態を創設した。フィリピンへの沿岸監視レーダー無償供与はその第1号だ。

日比首脳会談前日の11月2日、三菱電機がフィリピン国軍に自社製のレーダー1基を納入したと発表した。安倍政権が2014年、武器禁輸政策を緩和し「防衛装備移転3原則」を制定して以来、9年越しで初となる防衛装備品の輸出だった。

契約は4基で1億ドル。OSAで新たなレーダー納入が無償になるのだから、フィリピン政府にはありがたい話だ。

この移転3原則により、海上自衛隊の練習機TC90が5機、陸上自衛隊のヘリコプターUH-1Hの中古部品や機材がそれぞれフィリピンに送られた。国有財産の無償譲渡が禁じられていたため当初は貸与とされたが、2017年5月、自衛隊の中古装備品の無償供与を可能とする改正自衛隊法が成立し、結局はただで譲渡された。

フィリピンへの大盤振る舞いは安全保障関連に限らない。安倍首相は2017年1月にフィリピンを訪問した際、当時のドゥテルテ大統領に今後5年で1兆円の援助や投資を実施すると約束した。

その3カ月前にドゥテルテ氏が訪中した折に、中国側が計240億ドルの経済協力を申し出たことを意識したとみられる。

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