300年前の健康書が今さらながら心に刺さる理由 著者は平均寿命40歳の江戸時代に83歳の大往生

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『〔精選版〕日本国語大辞典』(小学館)は、養生を「生命を養うこと。健康を維持し、その増進に努めること」と定義している。養生の概念ならびにその方法は、8〜9世紀に中国大陸から伝わり、長らく一部の知識階級のためのものだった。

鴨長明(かもの・ちょうめい)が1212年に執筆した『方丈記』には、「つねに歩き、つねに働くは、養性なるべし。なんぞ、いたづらに休み居らん(よく歩き、よく働くことは養生に役立つ。なぜ、休むなどという無益なことをするのか)」という記載がある。

「養生」よりも「健康」という言葉が多用されるようになるのは、明治政府が西洋医学を重視する政策を取って以降のことである。

『養生訓』は出版されるやたちまち評判になり、幕末にあたる1864年までの約150年間に12回も重版された。明治時代以降も解説書を含めて繰り返し出版され、例えば1982年発行の講談社学術文庫『養生訓』(貝原益軒著、伊藤友信訳)は、2022年までの40年間に65回増刷されるロングセラーになっている。

『養生訓』は非科学的?時代遅れ?

その一方、現代では『養生訓』に対する批判もある。西洋医学が主流になる前に盛んだった中国大陸の伝統的な医学薬学が基礎になっているため、非科学的な記述が多く、時代遅れで役に立たないというのである。

けれども、これは表面的な見方である。『養生訓』は実用的な作りになってはいるが、『養生訓』の『養生訓』たる所以は、健康になり、健康でいるための心がまえを強調していることだ。健康に対する考え方、心の持ち方に関する助言は、時がたっても色褪せることはない。

養生の大原則

また、益軒は医薬の専門知識を有しながらも、同時に儒学者であった。冒頭で、「健康こそ人生最高の幸福である」と述べ、「幸福になるために人はどう生きるべきか」を解き明かしていく。

体と心の両面から全人的な健康を目指す『養生訓』の思想は養生哲学と呼ぶべきものであり、これこそが『養生訓』の肝である。

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