「バター丸ごとホットケーキ」出す店の隠れた意図 消費者が知らないバター生産の「不都合な真実」
「チーズを作ったら、ホエー(乳清)が出ます。リコッタチーズの原料にできますが、これがまた売れないんです。パンにも使えますが、あまりおいしくならない」(西川社長)。脱脂乳やバターミルクも、有効活用する道は試行錯誤中という。
セントル・ザ・ベーカリー開業の目的の1つに、脱脂乳を使う出口を作ることがあった。「水の代わりに脱脂乳を加えて食パンを作っています。乳糖が含まれるので、一般的な食パンより甘くおいしく感じるんです。僕はパン屋さんたちに、バターが欲しいなら脱脂乳も買わないとバター不足がくり返される、と呼びかけているのですが、なかなか応えてはもらえません」と西川社長はいう。
なぜなら、「脱脂乳に含まれるカゼインというタンパク質を、90度以上の熱で失活させて使わないと、加工障害を起こしてしまう」などコストが上がってしまうからだ。
パンの価格を「正当な水準」に引き上げてきた
パンに対する問題意識が高い西川社長は、兵庫県加古川市を拠点にした製パン会社、ニシカワ食品の2代目社長の元で生まれた。長年、パン屋を見てきた経験から、パンの価格が安過ぎる現状を変えよう、と2003年にヴィロンを開業している。東京に出店したのは、神戸で適当な物件が見つからずにいた間に、渋谷の高級住宅街、松濤の入り口という好立地が見つかったことがきっかけだった。
日本で嗜好品的なバゲットなら、高くても質がよければ買うのではないか、と見込んで、ヴィロンはフランスの製粉会社、ヴィロン社が販売する香り高い小麦粉を使用する。西川社長の目論見通り店は成功し、町のパン屋のバゲットの価格水準も上がった。次は最も消費が多い食パンを狙い、国産小麦のゆめちからの宣伝も兼ねた食パン専門店セントル・ザ・ベーカリーを開業。そして巷の食パンの価格も上がった。
インフレが始まるずっと前から、よいものには正当な価格を、というムーブメントを西川社長は起こしていたのである。ル・スティルと美瑛ファームでは、給料のベースアップを続けている。今年4月と9月には、ル・スティルの200人の社員一律で1人10万円のボーナス昇給も実施した。
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