現に今、スズキは原則的にインドで売る車はインドで、日本で売る車は日本でそれぞれに合うものを生産している。日本独自規格で税制優遇がある軽自動車が日本オンリーなのは当然だとしても、それより大きいサイズでもインドで生産して日本に輸出している車種は存在していない。
スズキはいっとき、インド向けに開発してインドで生産したバレーノを、日本に輸出することにチャレンジしたことがある。しかし、うまくはいかなかったという。スズキの2大市場のインドと日本では、事業環境が大きく異なる。インドの平均所得は日本の6~7分の1程度で、生活習慣、文化や好み、インフラ状況にも差がある。
EVならではの事情
にもかかわらず、今回のeVXをインド、日本、欧州の共通のものにしてインドで一括生産をしようとしているのは、EVならではの事情があるからだ。
まずは価格帯。スズキが参考値として公表しているeVXの航続距離は500㎞で、電池の原価から考えても販売価格は円ベースで400万円は超えるはずだ。
スズキの担当者は「インドではアッパー層(富裕層)をターゲットに想定している。このクラスになってくると、求められる主要装備は日本、インド、欧州であまり違いがない」と話す。日本とインドで中間層同士を比較するほどには、ニーズにそこまで大きなギャップはないというわけだ。
また、両市場のEVの「進度」の遅さも影響していそうだ。インドは充電設備の確保などこれからのインフラ整備の課題が大きいことから、スズキは2030年度までのインドでの新車販売におけるEV比率の計画を15%に留めている。日本も主要先進国の中ではEV化が最も遅いグループであることから、スズキの計画では同20%だ。
一方、EV先進エリアの欧州では厳しい規制も念頭に同80%とする。ただ、スズキの欧州での販売台数は2022年度のスズキ全体の販売台数300万台のうちの5.7%にあたる17万台に過ぎない。
以上のことから、少なくとも当面はどこかのエリア1つだけでeVXの販売台数のボリュームを出すのが難しいことも、日本でも売り出す大きな理由になったとみられる。
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